アメリカ合衆国で小さな自動車版サブプライム会社が破綻した。当初トランプ関税でアメリカ人の暮らしが苦しくなっておりサブプライム会社がもたなくなったのだろうと考えたのだが、事情は更に複雑なようだ。トランプ大統領の場当たり的な経済政策はインフレを加速させるだろう。
サブプライムとは信用力に問題がある人たちを指している。高利でお金を借りてくれるので破綻さえしなければ魅力的な顧客だ。
リーマンショックではサププライム層向けの住宅ローンメーカーが破綻し金融市場全体にショックが広がった。このときの経験があるため現在ではサブプライム会社が破綻したからと言ってすぐさま金融市場に深刻な打撃があるとはみられていないそうだ。
では何が問題なのか。
Bloombergは2つの記事を書いている。1つは小さなサブプライム会社が破綻したことでウォール街に衝撃が広がっているという内容。もう一つはアメリカの家計に痛みが広がっているという内容だ。
普段リベラル系のメディアにばかり接しているため、MAGAが支援するトランプ大統領の政策は結局中間所得者に痛みとなって戻って来るという言説にこだわりたくなる。このため破綻した会社の詐欺的な行いよりも次のようなコメントを抜き出しがちだ。
不法移民向けのローンが多いなど、今回の件には同社固有の要因もある。ただ、景気減速のなかで低所得層の借り手にとどまらず、比較的裕福な層にまで苦境が広がりつつある状況も映し出している。
自動車版サブプライム破綻は「炭鉱のカナリア」、米家計に広がる痛み(Bloomberg)
しかし問題は更に複雑である。
アメリカ合衆国ではバイデン大統領の後期に激しいインフレが始まった。バイデン大統領の解決策は加熱するアメリカ経済が供給不足に陥らないように外から労働力を連れてくるという場当たり的なものだった。バイデン大統領は推定1100万人の不法移民に公的な資格を与えようとまでしていた。一方で中間層の生活が行き詰まりつつあるという認識もあったため学費ローンの免除などが計画されていた。
つまりバイデン政権は経済運営に失敗しつつありその自覚もあった。そのためそれが破綻しないように問題を先送りしてきた可能性が高い。
インフレが高止まりするとサブプライム層の暮らしは苦しくなってゆく。ところがトランプ政権になり金融機関の監視が弱まっている。トランプ大統領はバイデン政権とは違い「アメリカ企業の稼ぐ自由」を重要視する。
今回破綻したサブプライム向けローン会社のトライカラーはもともとネバダ州の低所得ヒスパニックを相手に事業展開してきた。今回のトランプ大統領の不法移民刈りで大きな被害を受けたことは間違いがない。しかし信用力が低いからこそ高利でお金が貸せることも事実。破綻しない限り高いリターンが得られる魅力的なビジネスと言うこともできる。
トライカラーは複数の借り手に対して同一担保を差し入れていた可能性がある。トランプ政権は金融業界の監督に消極的なので仮に同じような事例が複数見つかると金融市場がサププライム系の会社の投資から撤退することになるだろう。
これまでサププライム系金融会社に依存してきた人々は生活基盤である車や住宅を失う可能性があるということだ。
サブプライム層の生活困窮の影響は多岐にわたるが、ここでは労働力供給制約の問題を考えてみたい。
まず、トランプ大統領は不法移民を追放している。これはアメリカ合衆国で急速に少子高齢化が進むのと同じ現象だ。労働力が逼迫すると人々は限られた人材を奪い合うことになりコストプッシュ型のインフレが起きる。そもそもバイデン大統領が不法移民に公的ステータスを与えようとしていたのは労働力の供給問題を解決する必要があると考えていたからであると考えるとこれはインフレ要因になる。
加えてアメリカ合衆国では別の労働力供給問題が起きている。AIが台頭し新卒者が労働市場に参加できなくなっている。企業は初級労働者を訓練する「訓練所」のような役割を果たしてきたが、この大切な機能がAIに奪われつつあるのだ。将来的に複雑な仕事をこなす人がそもそも労働市場に入ってくることができなくなる。
今回はSNS言論の過激化について触れた。労働市場から締め出された若者が次第にネット上で過激化しているという内容だった。SNSで言論撹拌が行われることで既存の右派・左派という区分けは次第にぼやけてゆき、制御不能な何かが暴走するさまはまさにがん細胞そのものである。
新卒者がかわいそうだと感情的に捉えることも出できる。しかし、冷静に考えてみれば彼らはそもそもアメリカの経済成長を支えるための強力な兵隊となれるはずだった。AIの登場やトランプ政権下で増す経済の不透明化の影響を受けて労働市場への参入を拒まれている。
バイデン大統領の政策は労働供給制約を意識し彼らがなんとか労働市場にとどまることができるように「あの手この手」の政策を講じてきた。一方で共和党の攻撃にさらされてきたために社会に対して危機感を共有することはできなかった。
トランプ大統領はおそらく自覚しないままこの労働成約問題に手を突っ込んでしまっている。さらに外国企業に対してアメリカ合衆国への投資を呼びかけている。アメリカ合衆国が労働制約問題を解決できないままで工場を呼び込めばどうなるか。当然、労働力の逼迫が起きてインフレが加速する。アメリカ合衆国がこのインバランスを抱えたままで「成長」し続けることができるのか、どこかのタイミングでクラッシュするのかは誰にもわからない。
