10月末にハロウィーンがやってくるアメリカ合衆国では死神がリストラを行っている。各メディアとも全容が掴めないため、一方的に送りつけられてきた一時帰休通知を掻き集めて全体像を探ろうとしているという異常事態。だた、アメリカの政治を毎日見ていると「なんだか新しい日常だな」と言う気がする。
この問題は選挙によって支えられた民主主義がどのように不利益を分配するのかを考えるうえで非常に貴重な観察材料になる。
日本では各政党の間の「阿吽の呼吸」で総理大臣が責任を押し付けられることになりそうだがアメリカ合衆国では政権政党が敵対政党にその役割を押し付けようとしている。
そのために利用されているのがハロウィンの死神だ。
どういうことなのか。事情を整理してゆこう。
アメリカ合衆国の保守系団体が議会と司法を超越して大統領が強い権限を振るうプロジェクト2025というプランを提示した。あまりにも極端なプランだったため共和党支持者の中にも不安視する人が多く、トランプ候補(当時)は距離をおいていたが、実際に共同作業していたことは明白である。
その中心人物の一人がラス・ヴォート氏だった。現在はホワイトハウス行政管理予算局長という地位にある。BBCが「プロジェクト2025から閉鎖の実行者へ」という英語記事を書いている。
トランプ大統領は閉鎖に合わせてAI動画を投稿。トランプ大統領とバンス副大統領が囃し立てる中で死神のようなラス・ヴォート長官が怯える民主党ゾンビを対峙するという内容になっている。
トランプ大統領が明らかにこの惨劇を面白がっていることがわかる。混乱を作り出してすべてを民主党のせいにしようとしているのだ。
実際には共和党支持者も影響を受けるわけだが、中には「何が起きているのか」に気が付かずそのままトランプ大統領を指示し続ける人も出てくるだろう。
トランプ大統領は今回のレイオフ(一時帰休)が民主党系のプログラムを狙い撃ちにしていると認めている。
トランプ大統領は記者団に、人員削減は「民主党が始めたことだ」と述べた。
米政府、大規模な人員削減開始 政府機関閉鎖10日目(REUTERS)
日本の常識から見ると異常なことが起きていると感じるのだがトランプ政権は選挙キャンペーン中から徐々に既成事実を組み立てており「もはやそれほど異常とは感じない」のが現状。これがこの話のもっとも恐ろしいところである。
なお、トランプ政権は一時帰休中の職員の給与は支払わなくてもいいという独自見解を持っている。法律は連邦政府の職員の権利を保証しているが「その法律には欠陥があるから従わなくても良い」というのがトランプ政権の見解だ。
またこれとは別に、政府が閉鎖されている間は新しい義務を負ってはならないとする取り決めがあるという。解雇整理のための資金は新しい義務に当たるため、今回の大量解雇は違法である可能性が高い。
しかしながらトランプ政権はレイオフの全容を明らかにしておらず、従って何が合法で何が違法なのかという整理も追いついていない。マスコミはかろうじて一時帰休の案内を受けた人たちを直接取材したり労働組合から話を聞いたりして全体像をまとめようとしている。
なお連邦政府の閉鎖により米軍兵士も給料が支払われない可能性が高い。ジョン・トゥーン上院多数党院内総務は「何らかの措置を講じなければならない」と表明したが当然具体策を示せるはずもなく「民主党が妥協しなければならない」と主張した。トランプ大統領はヘグセス国防長官に「使える資金を掻き集めてこい」と指示を出したそうだが、記者たちに詳細は答えなかったそうだ。
