アメリカのみならず、大統領制国家に共通する最も危険な特質なのかもしれない。強い権限が一人の個人に集中するため、吟味に吟味を重ねたうえで選ばなければ、大変な事態が起きかねない。アメリカ合衆国の場合、その影響は国内にとどまらず、世界全体に及ぶ。
今、アメリカ合衆国のトランプ大統領が不安定化し、世界経済と安全保障を大きく揺さぶっている。
アメリカ合衆国最高裁判所の判決を受けて、トランプ大統領の発言は要領を得ないものになっている。しかし、アメリカのメディアはそれを正面から指摘できない。強い訴訟リスクがあるだけでなく、本人のメンタリティについて「確証」が得られないからだ。
ある意味で、トランプ大統領の認識には一貫性がある。もともと「ブランド」を軸にホテルチェーンなどを経営してきた人物であるため、アメリカ合衆国を「トランプブランドのホテル」のように捉えている。現在は「ライセンス料を取るべきだ」と主張しているそうだが、当然ながら、そんな法律も概念も存在しない。
各国への圧力としてライセンスを活用する可能性にも言及した。「不可解なことに、判決によれば、(私は)ライセンス料を請求できない。しかし、全てのライセンスは対価を請求するものだ。なぜ米国はできないのか?ライセンス料を得るためにライセンスを発行する!判決ではその点については説明されていないが、私は答えを知っている!」と記した。
トランプ氏、違憲判決改めて批判 「他の関税とライセンス」に着目(REUTERS)
トランプ大統領が何を気にしているのかも明白である。最高裁は「関税は議会の権限である」と判断したにすぎない。しかしトランプ大統領は、この判決が意図せずして大統領により強い権限を与えたのだと主張している。最高裁が自分の権限を抑え込もうとしている、という被害意識がうかがえる。
The Supreme Court, Trump said, “accidentally and unwittingly gave me, as President of the United States, far more powers and strength than I had prior.”
Stocks tumble after Trump ratchets up tariffs(ABC News)
さらに、今回の一連の動きが、「相手を滅ぼす」可能性まで視野に入れた駆け引きであるという認識も明らかだ。現在は「今回の件で交渉を持ちかけてくる国は、ひどい目に遭うぞ」と主張している。だが、駆け引きをしているのはトランプ大統領だけであり、相手国、特に同盟国は当惑しているにすぎない。
トランプ大統領は交流サイト(SNS)「トゥルース・ソーシャル」への一連の投稿で、「最高裁のばかげた決定を受けて『駆け引き』をしようとする国、とりわけ長年にわたり米国を『食い物』にしてきた国々は、つい最近合意した水準よりはるかに高い、さらにひどい関税を課されることになるだろう」と述べた。
米と「駆け引き」なら高関税、トランプ氏警告 最高裁の違憲判断受け(REUTERS)
トランプ大統領の国家経営に対する認識は、おそらくプライベートのホテルチェーン経営と大差ないのだろう。そして、この「わかりやすさ」こそが、多くのアメリカ人を惹きつけてきた。
しかし結果的に、このわかりやすさは、複雑な現実を乱暴に単純化した理解にすぎなかった。制度は、必ずしも彼の発想どおりには設計されていない。実際、BBCやBloombergは「トランプ関税は新たな不確実性をもたらした」と報じている。本来なら「トランプ関税」ではなく「トランプ大統領」と書きたかったのかもしれないが、そんな指摘はできない。すでに不安定な大統領の情緒を、さらに刺激しかねないからだ。
当然、この揺れは軍事・安全保障にも反映されると考えるべきだろう。Axiosによると、現在トランプ大統領に軍事的助言ができる人物は、ほぼ一人に限られているという。多くの意見を聞けば混乱しかねず、責任感から強く反対されても困る、という事情があるのだろう。その結果、周辺機関への根回しは行われなくなり、意思決定はすべて大統領の「気まぐれ」に左右されることになる。
議会制民主主義と異なり、大統領制は強いリーダーを求めて設計された政体である。つまり、大統領が不安定化すれば、アメリカ合衆国そのものが不安定化するだけでなく、世界の経済と安全保障全体が大きく揺さぶられることになる。

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