トランプ大統領がベネズエラの大統領夫妻を拘束し、ベネズエラが民政復帰するまではアメリカが管理すると言っている。また石油の接収意向も示した。ルビオ国務長官は国内向けにアメリカで裁判を行うと説明しているようだ。構図としてはロシアのウクライナ侵攻ににており「アメリカが第二のロシアになった」と考えて差し支えないだろう。武力に優れた大国は主権国家を管理して良いということになり、当然だが中国の台湾侵攻(台湾は国連から国家とさえ認められていない)の前例になる。
- トランプ氏、ヴェネズエラの大統領夫妻を拘束し国外移送と発表 米軍が首都を空爆(BBC)
- Trump says US ‘going to run the country’ after Maduro capture(ABC News)
- Venezuela live updates: Trump says US ‘going to run the country’ after Maduro capture(ABC News)
このところ、トランプ大統領は徐々にベネズエラへの攻撃をエスカレートさせていた。最初は麻薬密輸船(とはいえ証明されていない)を攻撃し、さらにタンカーを接収した。さらにベネズエラの埠頭にある「施設」を破壊していた。
議会共和党は一部の例外を除いて反対せず、国内世論も主に「国内法の整合性」のみを問題視していた。政府に批判的とされるThe New York TimesやABCでさえ「国内法に違反する可能性がある」ことのみが問題であるとの論調で、国際法・国際規範違反については全く問題していなかったのだ。
すべての統治行為を選挙に結びつけるトランプ大統領は国内からの反発がないことを探りつつ徐々に行動をエスカレートさせていた。今回も「ベネズエラ管理にはお金がかからない」と言っており、安上がりの選挙対策だと考えている可能性が高い。
しかし、おそらくアメリカの共和党エスタブリッシュメントたちは何が起きたのかがわかっている。これまで戦後の国際秩序を支えてきたアメリカ合衆国の根拠が完全に崩壊した。そして彼らはそれを止められなかった。
アメリカに詳しい国際法の専門家ですら「いったいどうするんだろう?」と言っている。
共和党エスタブリッシュメントにとっておそらく最後の望みは「ナラティブの維持」だったはずだ。しかしトランプ大統領は堂々と「ベネズエラが安全になるまでアメリカが管理する」と言ってしまった。これはプーチン大統領の説明と何ら変わりはない。プーチン大統領はウクライナの民主主義を危険思想とみなしており「ロシアの管理のもとで安全なウクライナを実現する」とトランプ大統領に説明してきた。ウクライナが「安全」になった暁にはザポリージャ原発を共同管理し「暗号資産の計算」をやらせましょうと提案している。つまり中国が「台湾分離勢力は危険なので中国が安全に管理します」と宣言しても構わないということになる。
これは「新しい秩序=国際規範」が生まれたことを意味するわけではない。単に「やったもの勝ち」の状態を誰も止められなくなったということを意味しているだけだ。
ところが、話はこれだけでは終わらなかった。トランプ大統領はベネズエラの石油をアメリカ合衆国が接収すると宣言してしまったようだ。なんだ、石油目的か、それじゃ強盗と変わらないなということになる。共和党エスタブリッシュメントはせめてこれだけでも阻止できなかったのかと思ってしまう。
エマニュエル・トッド氏は著作の中でアメリカ合衆国は自分たちが依って経つ土台を自ら壊しつつあるとしていた。この考え方はヨーロッパでもさまざまな反発を生んでいるようだが、結果的に彼が言っていることは正しかった。アメリカは自らが依って立つ国際秩序の守護者という土台を自ら粉々に破壊した。
今回トランプ大統領は出口戦略を示していない。国際政治学者が「どうするんだろう」と言っているくらいだからおそらく管理コストについては「計算」ができていないのではないかと思う。鈴木一人氏のXのスレッドを見る限りだと「マドゥロ政権を居抜き」するのかもしれない。確かに「コスト」は最低限で抑えられる。
一方でトランプ大統領を支える一般の人々が気にしているのは「自分たちの請求書」「スーパーの値札」「医療保険の掛け金(プレミアム)」「クレジットカードの利率」なのだが、ベネズエラの攻撃に成功してもこれらが改善されることはない。むしろ「トランプ大統領は我々の暮らしには無関心で外国に介入してばかりいる」と考えることになるだろう。ベネズエラから持ってきた石油をアメリカ人にばら撒くことができればいいのだが、押収下石油を国内で使用できない可能性が高い。押さえることと使うことの間に高い「国内法の壁」があるようだ。
つまり、この時点でトランプ大統領はMAGAの戦略を後付けで正当化してくれていたエスタブリッシュメントの離反をうみ、トランプ大統領が生活を改善してくれると期待していた支持者たちを落胆させることになる。
だが、話はそれだけでは終わらない。実はベネズエラに似た国がある。それがイランだ。ベネズエラの油田は主にアメリカ企業が開発したものだ。この構図がイランに似ているのだ。イランの油田を開発したのはイギリスだった。モサデク政権がこれを一時国有化する。アメリカはそこに介入し食い込んだ。つまり「イギリスの石油利権を取り返してやる」として見返りを要求したのだ。このときにアメリカに協力したのがパーレビ国王だがやがて国内で反発されイスラム革命が起きている。
この事件の直前にトランプ大統領はイランへのSNS口先介入を行っている。今回の事例はイランにとって「明日は我が身」ということになる。ここにロシアが裏から「この局面を打開するには核兵器開発しかない」とほのめかせば、最終的にサウジアラビアまで「核兵器開発ドミノ」が起こりかねない。
トランプ大統領はこれまで衝動的な行動で選挙戦を有利に勝ち抜いてきた。これが成功事例になっており、今回のベネズエラ侵攻に踏み切ったものと考えられる。今のところ「費用はかからない」と表明している。おそらくまわりのスタッフたちがそう説明しているのだろう。
彼らはトランプ大統領に「今、民衆が政権に抗議しているのですから、介入してもコストはさほどかかりませんよ」と説明するかもしれない。トランプ大統領を過激な行動に駆り立てるのはさほど難しくない。国内法は脆弱で憲法にブレーキをかける条文はなく、共和党エスタブリッシュメントはMAGAの反発を恐れて何も言えない。つまりアメリカ合衆国は今やブレーキのない状態に陥っているのである。

コメントを残す