トランプ大統領が前代未聞の暴挙に出た。国連総会に出席しようとするアッバス議長らにビザを発行しないことにした。時事通信は国連総会の一部がジュネーブで開かれた事があると書いている。つまり今回もそうなるかもしれないということだ。
イーロン・マスク氏に離反されたトランプ大統領は彼に代わる金づるを必要としている。そんなトランプ大統領が熱心に進めるプロジェクトがガザ問題だ。
先日クシュナー駐仏アメリカ大使がフランス政府に内政干渉をしたとお伝えした。フランスの反ユダヤ政策実施の徹底を求める内容だった。フランス政府は反発しているがアメリカのユダヤ・コミュニティは拍手喝采だろう。
今度はブレア元首相(労働党)とジャレット・クシュナー氏(トランプ大統領の娘婿でクシュナー対しの息子)がガザ情勢について話し合った。クシュナー氏はガザのリビエラ化の提案者とされる。
ブレア氏はパレスチナ・イスラエル二国体制の推進者ということなのでアメリカ合衆国も二国体制を支持していると考えたくなる。
ところが実際には「主役がいなければパーティーは盛り上がらないだろう」とヨーロッパを中心に進んでいるパレスチナ国家認定を妨害することにした。これもトランプ大統領を支えるユダヤ・コミュニティ(もちろんユダヤ系全体がこのコミュティに属していると主張するつもりはない)の期待に沿って行動している。
おそらくトランプ大統領はヨーロッパ首脳に薄っすらとした敵意を持っている。ただし王様のような待遇を受けると「やはりヨーロッパに付き合ってやるのも悪くない」と心が揺れる。
プーチン大統領もこのうっすらとした敵意がよくわかっており「面倒なヨーロッパを排除して強い国だけで新しい世界秩序を決めましょう」と吹き込んでいるようだ。このところトランプ大統領はロシアへの直接攻撃を避けインドを代理的に叩いており中国の習近平国家主席との対話も熱望している。
ロシアと中国はトランプ大統領に偽りの期待を抱かせることで時間稼ぎと体制強化に成功している。9月3日の対日戦勝記念日はその1つの舞台になる。
今回のトランプ政権の決定は国連とアメリカの歴史上はかなり異例のことなのだそうだ。
国際社会は第二次世界大戦の被害が少なかったアメリカ合衆国に大きな期待を寄せ国連本部をニューヨークに設置することを決めた。その前提条件としてビザの無条件発行を求めている。今回の決定はこの国際社会の信頼をないがしろにするものである。
国連本部をニューヨークに設置することを定めた「国連本部協定」では、米国は当地での国連関連行事に出席する各国高官にビザを発給する義務を負っている。米国はこれまで、イランのような敵対的関係にある国の高官にもビザを発給してきた。
米国、アッバス議長ら80人のビザ発給拒否-国連総会への出席困難に(Bloomberg)
もちろんトランプ大統領が選挙対策を優先しているというのは単なる仮説なのだが、この仮説を前提としないとなぜアメリカ合衆国が国連加盟国の期待を裏切ってまでもビザの発給を差し止めたのかが考察できない。
歴史に興味がないトランプ大統領はなぜアメリカ合衆国が戦後国際的に有利な地位を獲得したのかを理解できていないのだろう。それよりも眼の前の選挙で勝つことで頭がいっぱいになっている。
結果的に国連体制はさらに崩壊しロシアと中国が喜ぶ世界が作られようとしている。ロシアと中国はトランプ大統領を好機としてアメリカの切り崩しに成功しつつあるのだ。
CNNは苦々しくこの現実をこう表現している。
独裁者、ポピュリスト、友好国と敵国、欧州で戦争を仕掛ける強権国家、そして世界最大の民主主義国家の指導者。これら全てが今週末、中国の習近平(シーチンピン)国家主席の主催する首脳会議に臨む。この会議は、西側諸国に対抗できるグローバルリーダーとして中国をアピールすることを目的とする。
習氏、上海協力機構でプーチン氏とモディ氏を歓迎 トランプ氏が国際関係ひっくり返す中(CNN)
