フランスを皮切りに西側諸国にパレスチナ政府を承認する動きが出ている。イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドが揃ってパレスチナ国家承認に向けて動き出した。現在はオーストラリアが承認を決めニュージーランドも近く承認を発表するものと見られている。
ヨーロッパはもともと将来的にパレスチナ地域はイスラエルとパレスチナの2政府体制になるべきであると考えてきた。このうちパレスチナはヨルダン川西岸とガザに「領土」を持つ。
しかしながらヨーロッパはパレスチナ政府を認めてこなかった。今回カナダが「承認には将来の改革が条件になる」としている。つまりパレスチナ政府は腐敗しており統治能力がないと考えてきたとわかる。
ガザ地区では2006年に民主的な選挙の結果ハマスが選ばれており、ガザの住民たちもパレスチナ政府の主流派に期待していなかったことがわかる。ハマスは選挙に勝利すると西側諸国はパレスチナ自治政府への支援を拒否した。パレスチナ政府がハマスを追い落とそうとした結果、態度を硬化させたハマスはガザ地区で専制的な統治を推進し最終的にガザ全域を巻き込んだ破滅的な10月7日攻撃に踏み切った。
では今になってなぜ西側各国はパレスチナ政府を承認することにしたのか。
イスラエルのネタニヤフ首相はおそらくは自身の政治的延命のためにガザに新しい政府を作ろうとしている。これはロシアのプーチン大統領がウクライナに親ロシア派の政府を樹立するのと同じ「力による現状変更」である。イスラエルのガザ侵攻を認めてしまうとウクライナに対する侵略を認めてしまうことになる。おそらくヨーロッパではこの2つがリンクしている。
しかしこの構図を成り立たせるためにはまずパレスチナ政府を承認しガザの正式な統治者であると認めなければならない。
もちろんヨーロッパがパレスチナ政府を認めたとしてもパレスチナ政府の腐敗体質がなくなるわけではない。これは実はウクライナも同じ。ウクライナもヨーロッパの中では政府腐敗の激しい国として知られており今でもその状況は続いているようだ。
ここまでを読むと「これはヨーロッパの問題であって日本にとっては対岸の火事である」と考える人が多いのではないか。ヨーロッパの優柔不断な態度が事態を悪化させたのは事実だが、無論対岸の火事ではない。
中国が力による現状変更を目指して台湾や尖閣諸島・沖ノ鳥島などに侵攻するというシナリオを考えてみよう。西側各国は台湾にある中華民国を承認していない。また中国は国連安保理の常任理事国だ。仮に今回のウクライナとイスラエルの事例を許してしまうと、将来の極東情勢が危険にさらされることになる。日本はこの不都合な状況を希望的観測で打ち消してきた。「いざと言うときアメリカ合衆国は中国と対峙してくれるだろう」というわけだ。しかしその幻想も次第に崩れそうになっているため保守と呼ばれる人々は沈黙するようになった。内向き化した保守は次第に外国人排斥に力を入れ始めヨーロッパのスタンダードでは「極右化」している。この極右化した保守を自民党は内包できない。
日本が取りうる選択肢は3つある。
- 力による現状変更が許される状況を認める。つまり尖閣諸島や沖ノ鳥島などを失う可能性を受け入れる。
- 力による現状変更にあくまでも抗う。
- 力による現状変更に抗いつつ将来的な変化に備える。
日本の政治報道は国内の政局報道に終始しており、こうした世界情勢の変化には対応していない。
結果的に日本は
- 眼の前の現状変更はなかったことにして、したがって何もしない
という最悪の選択をしている。
なおイスラエルはガザ市に対して10月7日までに退去するように呼びかけている。またガザ全域に対する攻撃も激化している。特にジャーナリストが狙い撃ちになっておりジャーナリスト6人が犠牲になったそうである。ガザの悲惨な状況が伝わらなければ世界はガザを忘れると考えているのかもしれない。
