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訪台ラッシュですれ違う期待 台湾が渡る危ない橋

11〜17分

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今回のエントリーはかなり青いピル・赤いピル度が高い。危険なのは青いピルを飲んでいるつもりでも「あれ、私の思考は実は青いピルなのでは」と気がついてしまうことだ。

台湾で賴清德総督に弾劾案が出された。成立する見込みは低いが与野党対立が激化している。一方で自民党の政治家たちが相次いで台湾詣でを行っている。

ここで「実に危険な状態だ」と言ってみても「いや何が?」と思う人が多いのではないか。一つひとつ丁寧に見てゆこう。

まず萩生田光一氏が台湾を訪問し頼清徳総統と面会した。中華民国という国(あるいは台湾という地域)のトップと会談し「大物感をアピール」するとともに、親米国家としての高市ジャパンの期待を高める狙いがあるのだろう。さらに鈴木前法務大臣らも頼清徳総統と会談している。このあと河野太郎氏が訪問する予定になっている。あやかりたい人が続々と台湾詣でをしている。

日本側(高市ジャパン)のナラティブは次のとおりである。

  • 日本は日米同盟を背景にして中国と渡り合ってゆかなければならないし、それが一番安上がりだ。
  • アメリカ政治が不安定化する中、トランプ大統領を日米同盟に惹きつけておくためには「開かれたインド太平洋路線」をもっと売り込む必要がある。
  • そのためには日本はシーレーンに位置する台湾を支援しなければならない。
  • 台湾は「親日国家」であり、あの中国とは違っている。
  • だから「台湾の」頼清徳総統を支援しよう。そうだそうしよう!

確かに高市政権の支持率をキープするには良い政策なのかもしれない。

伝統的なアメリカの政治に近い人たちも、日米同盟のコンテクストから台湾との「近しい関係」のアピールに余念がない。台湾問題は彼らの立ち位置から見れば重要なテーマであり、それを国民向けのわかりやすいメッセージに翻訳するのが高市総理に期待された役割である。

しかし実際の台湾では議会と大統領(台湾では総統と呼ばれるが)のねじれが起きており「アメリカは当てにならないかもしれない(疑米論)」が出始めている。確かに「疑米論」は中国のプロパガンダ的な要素はあるのだろうが、台湾の人々が「第二のウクライナになってはいけない」と考えていることも確かなのだ。

現在の台湾の第一党は中国との融和を訴える国民党でありその議席差はわずか1議席。そのためキャスティングボートを握る少数政党の地位が上がっている。

今回の弾劾の状況は韓国に似ている。

選挙で大統領と議会がねじれたときには軍隊を動かそうとして「クーデターだ」と大騒ぎになった。頼清徳総統は裁判所を動かして「野党が主導した立法審査権の強化は違憲である」という判決を勝ち取っている。つまり司法を使って議会に制限を加えたのである。

国民党は「民進党こそが対立を煽り台湾を危険な状況に追い込んでいる」と声高に訴えている。この激しさが台湾流だ。

台湾では「民進党が主導する巻き込まれ」不安が出始めている。確かに大陸中国が強く働きかけているという事情はあるのだろうが、中華民国国民(台湾市民)がそれに同意しつつあるのも確かなのだ。

アメリカを巻き込むと次のような構図(文化的すれ違い)が生じていることが分かる。

  • 日本人は普段から良くしておけば何かあったときにアメリカから助けてもらえるだろうと期待する。
  • アメリカ人は「やりたいようにやってくれてもいいが最後には自分たちが責任を取るべき」と考える。
    • ウクライナの支援はウクライナの兵士が戦っているのが前提。
    • 仮に中華民国(台湾)議会が対中政策を政治利用し始めるとアメリカはおそらく支援してくれない。
    • 日本も「勝手に台湾に出かけていって対立を煽った」とみなされる。ここで日本人が「勝手に後始末する」ならそれはそれで構わないが、アメリカを頼ってもアメリカは助けてくれない。自助努力の国だからである。「お前らが勝手に煽ったんだろう」と考える。
  • このときに日本人は「ここまで忖度してきたのに、あれは何だったんだ?」と戸惑うだろう。
    • ここであまり政治に関心を持たない層が「日本はアメリカについてゆきさえすれば余計な負担は避けられるという約束だったのでは?」と騒ぎ出すとこれまで高市政権を支えてきたナラティブが崩壊する。
    • しかし高市政権は右派にも支えられているためゲームから降りられない。
  • 実は台湾(民進党)も「なぜかわからないが日本が勝手に押しかけてきて助けてくれている」として最大限に政治利用を図るかもしれない。
    • 国民党は「日本は民進党に肩入れして状況を混乱させている」とみなす。そしてそれに同調する国民も実は少なくない。
    • つまり台湾では国民党と民進党の対立のフレームが本筋として語られる可能性がある。

ここで「台湾のことを悪くいいすぎだ」と考えるかもしれないが、そもそも台湾は国民党が台湾人を弾圧する「白色テロ」を経験している。また長く続いた中国との緊張関係によって「利用できるものはすべて利用して国益の最大化を働かなければならない」と言う生き残り戦略が正当化されるようになった。日本人はこれを計算高さだと考えるかもしれないが、彼らも生き残りに必死であり一概にそれを責めるのは筋違いだ。

今回の一連の読み物を読んで「高市総理の一連の政策はやはり独りよがりだった」「やはり高市政権は偽物だ」と考える人もいるだろう。そもそも産経新聞ばかりを読んでいる人は「それもこれも全部中国のプロパガンダなんだから、これまで通りの高市自民党のナラティブを信じよう」と考える。これは確かに青いピルだがそれを飲み続けるのは読者の自由である。

しかし中には、青いピルを貪り飲む人たちを横目に「日本のマスメディアの論調はどこか現実をそのまま見ることを拒否し続けているのではないか」とか「政治家も人気取りに夢中で実は大局を見ていないのでは」気がついた人もいたのではないかと思う。

一度気がついてしまうと引き返せない。実はそれがすでに赤いピルを飲んだ状態なのである。赤いピルを飲んだ人たちは実は我々は以前から国益対国益がぶつかり合う熾烈な国際環境に置かれていたと気がついてしまうはずだ。これまで我々の平安を支えていた背景が単なるCGによる書き割りであると気がついてしまうのだ。こうなったらもう引き返せない。

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