アベノミクスについて書いていた時、将来人々はフリーランチなどなかったと考えさめざめと泣きながらアベノミクスを反省するのだろうと思っていた。が予想は完全に外れた。人々はフリーランチを求め続けポピュリズムが台頭している。自民党は問題を総括できず「石破といっしょに問題を沈めてしまえ」「いやいやその後はどうするんだ」と愚かな論争を続けている。衆愚とは馬鹿の集まりではない。集まった人たちが無能化する状況を指す。
ドル円が150円台を突破した。きっかけはアメリカと日本の金融政策の維持だった。
円が対ドルで200日移動平均線を下抜けした。つまり状況が変わったことになる。147円〜146円の時に「これが最後の円高(円を売ってドルを買うチャンス)であろう」と指摘する識者がいて半信半疑でドルを買っていたのだが予想はあたってしまったようだ。
まずアメリカ合衆国の状況から整理する。パウエル議長は依然「関税の影響が見通せないがアメリカ経済は極めて好調である」として金利の維持を決めた。2名の反対意見が付いたが2名はトランプ大統領寄りで1名は次期総裁候補だと伝わっている。
トランプ大統領はパウエル議長を批判している。「アメリカ合衆国の経済はうまく行っているのにパウエル議長がこれを邪魔している」という内容。アメリカ合衆国は関税の影響でインフレが予想されている。こうした不調をすべてパウエル議長に押し付けたいのだろう。
ただしすでにお伝えした通り、アメリカ経済には暗い影が忍び寄っている。アメリカの企業でじわじわと人員削減計画が急増している。トランプ関税の影響で事業計画が立てにくくなっているという事情もあるそうだが、ホワイトカラーをAIに置き換える動きも進行している。アメリカ合衆国の経済は先進国と中進国が入り混じった状況になっている。この「先進国側」が没落すればアメリカ経済はインフレと不況が同時に訪れるスタグフレーションの状況に陥るが、パウエル議長はこの頃には退役してしまうのだから「あとは野となれ山となれ」だろう。
さて続いては日本の事情だ。TBS X Bloombergが「インフレ増税」を言及している。唐鎌大輔氏も河野龍太郎氏も数年前までは為替でかなり攻撃されていたようだが、実際に影響が出て初めて人々は円安の悪影響を認識したようだと言っている。
アベノミクスは事実上の財政ファイナンスで問題を先送りしてきた。この状況にすっかり慣れてしまった人々は財政ファイナンスの継続を求めている。いわば「フリーランチ」を政府に求めている。しかしその副作用は円安によるインフレとなって人々の生活を脅かす。また額面のインフレが起きると経済学的には家計から政府への所得移転が起きるとされている。これが見えない増税である。
フリーランチがないという言葉の意味は「何かを取ったら何かを支払わなければならない」という意味になる。例えば積極財政を推進すると代わりにインフレ増税という対価を支払うことになる。また企業を優遇すれば家計に影響が出る。この因果関係を無視して「いやどこかにフリーランチがあるはずだ」と主張し続けることをポピュリズムという。アベノミクスはポピュリズムの成功例である。問題を先送りし逃げ切った。
アベノミクス当時の当ブログの予想は人々はアベノミクスの負の側面に気が付きさめざめと泣きながら政策の変更を求めるというものだった。しかし実際にはそうなっていない。
円安によるインフレが起きるが人々は為替相場など意識しない。単なる賃金上昇を伴わない物価高なので政府になんとかしろと求める。その結果参議院選挙の争点は給付か減税かだった。
ところが給付や減税のような財政拡張政策は当然円安を招く。またスタグフレーション下では金利も引き上げられないため円安に誘導される。こうして蟻地獄にハマってゆくようにじわじわと国民生活が困窮化してしまうのである。
国民は愚かかもしれないがさすがに国会議員たちは状況がわかっているのではないかと思いたくなる。だが、現在の自民党の騒ぎを見ているととてもそうは思えない。問題を石破総理に押し付けて泥舟ごと沈めてしまいたい。しかし問題が解決するわけではないので「次の総裁」にも打ち手はない。結果的にお盆の時期に永田町に張り付くことになってしまいそうだ。
野党の減税法案も宮沢洋一氏に「論破」されてしまうのではないかとされている。財務省の陰謀を疑う向きもあるだろうが、宮沢さんは論理的に「フリーランチなどない」と言い続ければ議論に勝ててしまうのである。野党は財源を自民党に押し付けようとしているがおそらくは「一緒に考えましょう」ということになるはずだ。
