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【種籾を売り渡す】関税交渉でアメリカ合衆国が本当に欲しかったもの

11〜17分

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トランプ大統領の一方的な発表から始まった関税交渉。日本では15%で済んで良かったと言う安堵の声が広がっている。次第に詳細が明らかにになりアメリカ合衆国が本当に欲しかったものがわかってきた。日本の政治家たちはまだ自分たちが何を売り渡したのかに気がついていないし有権者がそれに気がつくのは10年程度あとになってからなのかもしれない。

池田勇人の所得倍増計画の要諦は企業の稼ぎを政府が一括管理しそれをインフラ整備に充てるというものだった。つまり稼いだ金を効率的に将来の成長原資に充当し高度経済成長を成し遂げたのである。種籾を蓄えて次世代を豊かにするというのは日本の古くからの理にかなった伝統だろう。

今回の関税交渉では関税率が話題の中心にある。15%程度の関税であればなんとかカバーできるであろうという安堵感が金融市場全体に広がっている。Axiosは日本の株価の上昇にふれて「自信の現れだろう」としている。

ヨーロッパに対しても15%程度の関税で妥結するだろうと言われているそうだ。最初に高値をふっかけておいて後でディスカウントを行い「ああ安く手に入った」という安心感与える手法。識者の中にはバザール商人と指摘する人がいた。

しかしどうやらこれはアメリカ合衆国が本当に欲しかったものではないのではないか。

ラトニック商務長官が「手柄話」としてファンドの存在を挙げている。実は共和党に近い人達が前々からベッセント財務長官の発案として注目し狙いは為替ではなくファンドだと説明していた人さえいた。ウォールストリートがホワイトハウスに働きかけることで巨額のマネーを扱えるようになる。また政治側も自分たちを支援してくれた州に重点的に投資ができる。トランプ政権であれば共和党州に重点投資すると言った具合である。ウォールストリートと政権にとってはウィンウィンのディールになる。

Bloombergの内容をまとめると次のようになる。

  • 合意に含まれる5500億ドル(80兆円)の出資は全て新規
  • パートナーシップという発想じたいは日本が持ち込んだもの
  • 出資・信用保証・資金提供を行う枠組み
  • 出資は日本企業のプロジェクトに限らない

ラトニック商務長官の話は「手柄自慢」的な色合いが強いため精査が必要だが、後発医療品の工場を建てたいとアメリカ合衆国が提案すると日本は資金をここに入れることになる。それが半導体や重要鉱物施設でも構わない。日本は出資を行うだけなので10%の利息だけを受け取り事業運営利益はすべてアメリカのものになる。

だいたい金融家の考えることは同じようなもの。元参議院議員の藤巻健史氏が同じような事を言っている。藤巻氏は自動車メーカーを例に挙げている。

藤巻氏の指摘に従うと従業員はアメリカ人なので所得税はアメリカに入る。また、企業利益もアメリカに入る。これはラトニック商務長官の説明と同じだ。企業運営をするのはアメリカだからだ。

藤巻氏が説明するようなことはすぐには起こらないかもしれない。ラトニック商務長官は日本はアメリカの安全基準を受け入れたとしているが工場の移転には数年単位で時間がかかる。しかし移転が完了すれば日本はアメリカ製トヨタの輸入国になる。

同じようなことはすでに家電で起きている。REGZAのテレビを「国産だ」と思って買っている人もいるだろうが、REGZAは中国のハイセンスグループ。家電産業がなくなったことで大阪の経済的地位は転落した。もともと大阪はコメの集積地。この儲けを工業に投資し徐々に繊維産業や家電産業を集積してきたという歴史がある。

繊維産業や家電産業の流出は政府の戦略のなさを背景に市場原理にしたがって起きているが、今回は石破政権が政権延命を図って「自発的に」アメリカに差し出したものだった。

すでにお金を持っている人は引き続きNISAを通じてアメリカに投資をすればいい。そもそも日本人は日本政府を信頼しておらずかなりの投資がアメリカに流れている。日本の国策による投資はほぼ失敗しているのでアメリカのほうが良いリターンが期待できる。つまりすべての日本人が困るということにはならないだろう。

だが働いて稼ぐ人たちはどうするのかと言う問題が残る。所得税も法人税もすべてアメリカに集まるのだから、日本は当然消費税中心の税制となり利益の上がらない産業で稼いだなけなしのお金を政府に召し上げられることになるのかもしれない。石破政権は2040年に所得5割以上増と言っていたがおそらく最初から守るつもりなどなかったのだろう。ここで言われていたのは実質ではなく名目なので日本をインフレ=物価高に追い込めばいい。

これは電機と自動車の労働組合から支援されている国民民主党にとってはほぼ自殺行為だ。組合員はアメリカへの転勤を余儀なくされる。だが、国民民主党の代表は90%がよくわからないとしつつ大喜びしている。これくらいおめでたい人でないと「総理大臣を狙います」などといいながらテレビに出まくるような軽薄なことは言えないのだろう。

なお石破総理はこれから精査しますと言っている。賢い交渉人であれば議会の拒否権・審査権などの条項を入れているはず。

怖いお兄さんに囲まれた日本がおずおずとパートナーシップで行こうと提案したところアメリカが乗り気で「はいはいここに契約書がありますよ、サインだけすればいいようにしておきましたから……」と言うのが内幕だったのかもしれない。

石破総理のお使いである赤澤大臣は内容を把握しない中で相手に有利な契約書にサインしてしまった可能性があるが石破総理は「中身を軽々にお話するわけには行かない」と記者たちに説明しているという。

おそらく言えないことがたくさんあるのだ。TBSテレビでは田崎史郎さんが「裏取引などがあったかもしれないから成功したと喜ぶのは早いのではないか」と言っていたが裏などなかった。本契約にバッチリと相手の欲しいものが入っていたのである。

なおトランプ大統領は先程日本が武器(防衛装備品)ボーイング機100機を爆買いすると発表したそうだ。

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