特に記述することもないのだがトランプ大統領とゼレンスキー大統領の会談は成果なしに終わったようだ。トランプ大統領は「ディールかノーディールか」と聞かれ「そのような聞き方は好きではない」と答えている。
日本でこの問題が「トランプ大統領が和平に前向き」と語られるのは、おそらくアメリカ合衆国の変質を本能的には感じ取っているからだろう。希望的観測が滲む報道ほど厄介なものはない。
トランプ大統領とゼレンスキー大統領の共同記者会見が行われた。
トランプ大統領が大人数でゼレンスキー大統領を取り囲んでいじめるような構図は作られなかった。また逆にヨーロッパの首脳たちが共同会見でトランプ大統領を取り囲んで集団で圧力をかけるような図式も作られなかった。あくまでも表向きは2つの国がこれまでの関係を維持するという図式が演出されている。
ゼレンスキー大統領は襟付きの洋服を着ている。服装に関する意地悪な質問も出たが今回はこの話題は制止されている。トランプ大統領はゼレンスキー大統領の服装を褒めた。
Axiosのまとめを見ると事態がより複雑化していることがわかる。トランプ大統領は明らかにロシアとビジネスディールがしたい。そのためにはゼレンスキー大統領の機嫌を取ってさっさとサインさせたい。つまりゼレンスキー大統領がサインをしたが最後「トランプ大統領はウクライナに関心を示さなくなる」ということだ。つまり曖昧なままで「トランプ大統領はウクライナに安全保障を提供する」という点だけを協調したいという動機が生まれる。
プーチン大統領からビジネスの機会をほのめかされたトランプ大統領はなんとかヨーロパ首脳の機嫌を取ってディールを認めさせたかったようだ。各国首脳たちにそらぞらしい表面的なお世辞を並べ立てて紹介している。各国の国益が複雑に交錯する交渉を扱いきれていないことがわかる。
このトランプ大統領のあからさまなディール中心主義と稚拙な外交姿勢は現在のアメリカ合衆国が日本に必要な安全保障上の庇護を与えてくれないという不安を刺激する。おそらくこの惨めな会談の様子がそのまま伝わることはないだろう。
関税問題でも日米同盟に関心がないことは明らかだがエビデンスが積み上がれば積み上がるほど日本人はこの問題を無視しようとするだろうし自民党の総裁選挙でも争点にならないだろう。日本人は気がついていないわけではない。わかっていて見ないふりをしているのだ。
トランプ大統領は「ディールかノーディールか」と聞かれ「すぐに結論が出るような問題ではない」というような意味のことを言っている。要するに結論は出なかった。なお通しで聞いていただけるとバイデン大統領と民主党に対する攻撃(つまりウクライナには全く関係がない)にかなりの時間が割かれている。トランプ大統領がこの話題に飽きていることがわかる。
結局、プーチン大統領が制裁を回避しアメリカ合衆国との雪解けムードを勝ち取っただけでトランプ大統領は何も得られなかった。
ヨーロッパの首脳たちは本音ではアメリカをこの問題に惹きつけたままで戦争状態を固定させたいわけだが、表向きは「自分たちは停戦に前向きだ」というメッセージを発し続けている。
プーチン大統領は当然トランプ大統領を信頼してなどいない。
プーチン大統領はトランプ大統領が周りに雰囲気に流されることはよくわかっている。インドと南アフリカの首脳と連絡を取って「欧米の好きにはさせない」としている。
日本ではロシアがアメリカと直接結びついて「新ヤルタ体制」のようなものを作ろうとしているのではないかという観測も出ていた。しかし実際にはロシアは列強主導の体制を再構築しようとしているわけではなくこれまで格下とされていたグローバルサウスを味方につけて欧米の優位を崩そうとしているのかもしれない。ソ連は東側諸国の盟主だったがロシアはプーチン大統領とグローバルサウスの元首たちの個人的な関係を基礎にして新興国のリーダーになろうとしているということだろう。
