補正予算と定数削減についての議論は別のエントリーで「清潔」に「メディア風」にまとめた。このエントリーではその背景で行われている「負担の押し付け合い」という醜い側面について整理する。
周辺自治体は抜本的に精度を見直すべきとしているがそもそも「地方自治の本旨」という曖昧な憲法規定の上に成り立った議論であり充実した議論は難しいだろう。結果的に東京都は周りの嫉妬を買わないようにうまく立ち回るしかないということになる。
前回お伝えしたように植田総裁は「アベノミクスの出口は近い」と一方的に宣言した。これまで金融専門家(金融市場と財務省)はこのメッセージをきちんと理解しているであろうという点までは確認ができた。
その後高市早苗総理のコメントが入ってきた。REUTERSの記事で確認できる。どうやら高市総理も現状を認識しているようだ。当初「政治が最終責任を取る」と主張していたが、主体ではなく客体として「日銀の政策に期待する」と態度を変えている。これは善意に解釈するならば「政治のリスクを避け、金融市場の動揺を抑えている」と言えるのだろうし、悪く言えば「意思決定から逃げている」とも考えられる。これまでの伝統的なフリーライダー政治(責任を取らない自民党)を継承しているといえる。
もちろん高市総理だけを批判するわけには行かない。高市総理は長年続いてきた責任を取らない自民党政治の「産生物」にすぎない。
もともとアベノミクスには日銀が余裕を作っている間に必要な「痛みを伴った改革」を行うための時間的猶予を作るという意味合いがあった。賃上げは「政策目標」とはいえ2%の物価上昇が持続可能性があると示すための判断材料に過ぎない。
しかし、結果的には「日銀の財政政策が成功すれば自ずと2%の物価上昇と賃上げが起きるのだ」と理解されるようになった。安倍総理が意識的に誘導したのか、国民がそう考えたかったのかはわからない。
高市総理はおそらくすでに日本は物価上昇トラックに乗ったことは理解しているが、同時に持続的な賃上げが起きているとは考えていないのだろう。だからお客さんとしてコストプッシュではなく賃金上昇を伴った2%物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けて適切な金融政策運営を行うことを期待していると述べている。「あとはおまかせしますね」と言って逃げてしまったのだ。
本来、維新主導で進んでいた定数削減は「政治がまずコストを負担する姿勢を示し」「国民にもコスト負担を求める」メッセージになって初めて正当化される。だが、おそらく維新は「国民に負担を求める」と言い出せないのだろう。また高市総理にもその姿勢は見られない。
結果的に(すでにお伝えしたように)自民党・公明党・維新は地方自治体に対して「給食費無償化の費用を一部負担してください」と持ちかけて全国知事会を当惑させている。全体像が見えない中で地方は負担ばかりを押し付けられるのではないかと警戒することになるだろう。熊本市の大西一史市長は「一体、あの3党合意は何だったのか。口約束だったんですかと。地方に負担を押し付けるような形になるのであれば、絶対に容認できない」と怒っている。
今度は自民党税制調査会が「東京都が一人勝ちしている」と考え東京都の小池都知事や自民党の東京都連を困惑させている。東京都連は「税制大綱は認められない」と反発、小池都知事も「東京狙い撃ちだ」と反論した。
この背景にあるのが周辺地方自治体の嫉妬である。東京都は豊富な税収を積極的に都民に分配している。しかし埼玉・千葉・神奈川にはこれが真似ができない。特に川崎市の住民はこれを「多摩川格差」と呼んでいるそうだ。
東京都の小池都知事は「パイの奪い合い」は何も生まないと主張している。これは現在の日本がゼロサム状態にあることを意味している。しかしながら、現在の日本の政治はすでに縮小均衡に向かい始めているのかもしれない。嫉妬が政治を動かしつつあるのだ。
東京都は唯一の成長点となっているが、皮肉なことに東京都が頑張れば頑張るほど各自治体の嫉妬が生まれ、成長点を潰す動きにつながってしまう。本日のChatGPTは「東京都も嫉妬を買わないように小池都知事はうまく立ち回るべき」という結論になった。
いうなれば雨が降らなくなった国が残った水源を奪い合うような状態になっているわけだが、その過程で「成功したものを嫉妬し成長点を潰す」ような動きが生まれてしまうのである。こうして成長するはずだったものも周りに押しつぶされる形で「公平に」潰れてしまう。
高市総理はこうした構造を知ってか知らずか、選挙前までの勇ましいメッセージを徐々に後退させ「主体」から「客体=期待して注視する存在」へとシフトチェンジを図っている。
埼玉県、神奈川県、千葉県の知事は「現在の税制は根本的に間違っている」と指摘している。熊谷千葉県知事は「税収基盤がもう根本から間違いすぎている。いびつな状況になってますんで、(国に)見直しの議論を確実に進めていただきたいと思っています」と当時の村上総務大臣に訴えているが、この根本を遡ると憲法に書かれている曖昧な「地方自治の本旨」に行き着く。
日本中がゼロサムゲームから縮小均衡に向かいかけている中で「本格的な議論」が始まってしまうと結果的に「水の奪い合い」が起きることが予想される。

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