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【政治議論の死】陰謀論によって崩壊するアメリカ合衆国の政治言論

9〜13分

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アメリカ合衆国では大統領選挙のときに拡散された陰謀論が科学的で合理的な議論を阻害している。多数派になったのだから陰謀論というよりは民間伝承(フォークロア)と言って良いかもしれない。

その場その場では正しく感じてしまう細切れのエピソードの集まりだが、YouTubeやXなど細切れになった言論空間では意外となんとかなる。

ただしやはり最終的には議論が破綻する。細切れの主張を政策として統合したときに成り立たなくなるからだ。民主主義は崩壊するのだが国家が亡くなるわけではない。合理的な意思決定が進まないまま政治は進行し国民の権利は奪われ続ける。

昨今の参議院選挙事情を見ているとそれぞれの主張は辻褄があうが全体としてはどこかおかしい議論が多い。一部政党の支持者を見ていると、そもそも彼らは全体を調べようとは考えていないようである。「あんな政党は下らない」と言われて初めて反発する。

SNS時代においては、それぞれの投稿は別の問題として扱われる。背景事情を調べない限りは整合性はさほど重要視されない。自分の声が社会に反映されないと考える人は増えており被害者感情にさえ合致していればそれで事足りてしまうのだ。だから政党はそれぞれの層にそれぞれ矛盾したメッセージを送り続けていればいい。さらに議席を維持しても「既得権が邪魔をするから自分たちの理想が実現できないのだ」と言い続けていればよいのだ。

ではこの情況は最終的にどこに向かうのか。彼らが多数派になった時点で議論が崩壊する。それが起きているのがアメリカ合衆国である。

先日来エプスタインファイルについてご紹介している。AxiosではついにFBI副長官が逃亡か?と言われている。

エプスタイン氏は有名人を顧客に持つ少女の性的売買ブローカーだった。彼が獄死した時に陰謀論者たちは「民主党政権がFBIに圧力をかけてエプスタイン氏を始末したのではないか?」と囃し立てた。トランプ候補もそのうちの一人で現在のFBI長官も陰謀論者の一人だったそうだ。今回「エプスタインファイルがなかった」と司法省が発表したため立場を失い金曜日の職場にでてこなかったとされている。このまま逃亡してしまうのではないかというのがAxiosの見立てだ。

テキサス州の洪水被害も陰謀論によるものとされている。気象災害などないと考える人達が「意識高い系が気象災害を偽装して国民を騙そうとしている」と考えている。現在アメリカ環境保護庁(EPA)が躍起になって陰謀論を否定しようとしているようだがMAGAの人々を静められるかは未知数なのだそうだ。

陰謀論というより民間伝承(フォークロア)がもう一つの真実(alternative facts)として通用している。

エネルギー産業の支援を受けるトランプ大統領は環境規制を撤廃しようとしており気象関係の情報を連邦政府のウェブサイトから次々と削除している。アメリカ合衆国は今後変動する気象災害に対処できなくなる可能性がある。

テキサス州を訪れたトランプ大統領はアボット・テキサス州知事を批判しなかった。これも二重基準だ。山火事のときには政敵のニューサム・カリフォルニア州知事を口をきわめて罵っていた。

ではこうした二重基準は何が問題なのか。アメリカ合衆国は大統領が緊急事態宣言を出して初めて連邦が州を支援できるようになる。だが、このところこの緊急事態宣言の発出が遅れたりでなかったりしているそうである。大統領が政治的な武器として利用している可能性がある。関税政策を通じて日本人にもおなじみになったあの気まぐれさが災害対策にも応用されている。

さらにノーム国土安全保障省長官は「今後は州が主体的に災害対策を行うことになる」としている。連邦予算縮小のためFEMAは段階的に廃止されるのではないかと言われている。富裕層減税の原資を捻出するために災害対策が犠牲になっている可能性がある。

ただしアメリカの政治議論はもはや冷静さを失っており「そもそも気象災害があるのかないのか」を巡って激しい議論がかわされている。陰謀論者は今やアメリカでは官軍だ。連邦政府がFEMAを維持すべきかと言う議論にはとてもたどり着きそうにない。

政治言論が二極化するとSNSはそもそも政治言論を扱わなくなってしまう。過激な言論を規制しているうちに何も言えなくなってしまうのだ。AIでも時事・政治問題は語られない。「教師」が悪すぎるためAIが暴走してしまう可能性が高い。Xも巨大なマスク氏の私有地になっており「右傾化したプラットフォーム」と見なされるようになっているそうだ。

こうして国民は次第に実際に何が起きているのかを知ることができなくなるのだがそれでも気にしないと言う人が少なくない。誰もがお気に入りのもう一つ真実を持っていて本当に何が起きているかなど特に重要ではなくなってしまうからである。