先日、アメリカ合衆国の経済は二極化が進んでおりこれが乱暴な関税交渉の背景にあるのではないかと書いた。いわば先進国と中進国の統治を1つの政府が行っているような状態。ところがこの好調な方の経済に陰りが見える。要因の一つはトランプ関税だが原因はそれだけではないようだ。何事もざっくりとしか捉えない日本政府とメディアを嘆いてばかりもいられないので(おそらく時間の無駄だろう)独自に解析を進めることにする。
アメリカ合衆国のGDPの速報が発表され年率ベースで3%の増加となった。よくわからなかったのでChatGPTに聞いたところ「名目ではなく実質」ではあるが、前回の縮小の揺り戻しの可能性が強いという御神託を得た。Bloombergも「反転」と書いているのでChatGPTに間違いはないようだ。
ただし原状回復ではないのだから「関税の影響はそれほどではなかった」というそれなりの安堵感は広がっているのだろう。これは裏返せば高い関税が確定してしまった瞬間にアメリカの経済が極端に冷え込むであろうという予想になる。
ところが懸念材料もある。
高収入の人たちの債務(クレジットカード・その他の支払い)が急速に拡大しているのだそうだ。Bloombergは年収15万ドル(2200万円)以上の債務延滞率が過去2年間で20%上昇したと書いている。
これもChatGPTに聞いたところだいたい20%弱の世帯が年収15万ドルで割合自体は拡大しているそうだ。高収入の人たちはそれなりに増えているということになる。
Bloombergの記事は高収入世帯の人々が仕事を探せなくなってきておりクレジットカードの支払に問題が出ていると書いている。だが、これだけでは背景がよくわからない。そこで検索したところYahooニュースでForbesの記事を見つけた。おそらくしばらくすると読めなくなると思うのだが、一応原典としてリンクしておく。記事の日付は2025年5月9日。
ホワイトカラーの雇用減速は2024年末(つまりバイデン政権末期)には減少傾向が見られた。
原因は
- 高金利
- 企業側の慎重姿勢
- 新しい関税の影響
雇用主はより時間をかけて候補者を選択できるようになっており求職期間は平均して5ヶ月程度。40%は2024年に1度も面接にこぎつけられなかった。つまり椅子取りゲーム(ポジションが減るなかで探し続ける)が始まっている。
自動化とAI化が進むとホワイトカラー業種はさらに再編成される。Forbesは「AIによって創出される仕事もあるだろう」としているが、労働者一人ひとりがこれに対応できるかは未知数。
さらにトランプ関税の影響で事業計画が立てにくくなると雇用創出が失われることになるだろうとしている。
ヘルスケアと社会サービスは例外的に雇用が拡大している。
アメリカと日本の国際結婚家庭についてVLOGを出しているParadi Showに近所に新しく建設される住宅について話し合うシーンが出てくる。コロラド州ののどかな街に新しい住宅が立ち並ぶ。夫は「あの家はいくらだ」とかなり詳しく知っているようである。自分が買ったときよりかなり値上がりしているという。自分たちもかなり豪華な家に住んでおり高収入であることがわかる。
コロラド州のこの地域は新しい産業によって雇用を得る人達が増えているのだろうが新しく立ち並ぶ家を見ながら「自分たちはなぜこのような家を手に入れられないのか」と不満をつのらせている人たちも多いことだろう。
これを付け替えて「外国がアメリカから仕事を奪っている」と置き換えたのがトランプ政権でアメリカではこれが「事実」ということになる。
しかし、アメリカ人は好んで外国製品を購入しており、関税がかかった後でもこの傾向は変わっていない。アメリカに製造業は回帰せずしたがって中間所得者の人たちの不満は解消されないだろう。
しかしながらこのような好景気がいつまで続くかはわからない。高収入の人たちを取り巻く環境は大きく変化しはじめておりAIの導入などによって今後も激変すると予想できる。
低所得者はそもそもトランプ政権からは見放されている。中間所得者の不満も解消されない。さらに高所得者の雇用にも陰りが見られる。
さらに医療セクターは好調。これも良いことのように見えるが実は医療にアクセスできない人も増えている。しかし医療セクターに規制をかけてしまうと経済を牽引してきたセクターが潰されてしまう。だからトランプ政権は製薬会社に圧力をかけて「関税」により薬価を下げようとしている。
せめて金利を低く抑えることができればとは思うのだが、FRBは5会合連続で金利の維持を決めた。FRBは明確な見通しを出さないものと見られている。FRBは景気の後退を示唆し不確実性が増していると指摘している。なお金利据え置きに反対した理事が2名いたそうである。次回会合は9月16日・17日とのこと。
関税政策はおそらく問題解決ではなく「指差し(問題を誰かのせいにする)装置」として機能している。日本やEUとの貿易合意は「詳細に乏しくよくわからない」と指摘されている。日本は政局入りしてしまったので今後どのような合意が結ばれるかは未知数だが、フランスのマクロン大統領は「通商協定は最終合意ではなく、これからも交渉を続ける」と宣言している。
日本もヨーロッパもアメリカの関税により影響を受けることになるのだが、その一方でそもそも世界経済を牽引してきたアメリカ経済が綱渡りの状況で加熱していることがわかる。
