ABCニュースの記事の一節に「日本は80兆円を前払いする」と書かれているのを見つけた。他のメディアはこの話を取り上げていないためまともには受け取られていないと書こうと思ったのだがTBS・Bloombergも見出しとして採用している。日本は15%の関税枠を80兆円で買ったという内容。日本の将来の成長の原資(いわば種籾)を売り渡したと解釈できる。
石破総理がかなり危険な精神状態にあることは間違いがないが、交渉相手のトランプ大統領がまともなのかも誰にもわからない。ラトニック商務長官はインタビューで得意げに今回の成果について喧伝しており一種の多幸状態にあることがわかる。日本がプロジェクト完遂の義務を負い利益の90%はアメリカが受け取るという内容なのだそうだ。トランプ大統領はさぞかし気に入ったことだろう。
トランプ大統領の発言は次のようなもの。トランプ大統領はヨーロッパがこのような巨額な支払いができるとは思えないがとしたうえでこの発言を行っているためヨーロッパとの交渉のブラフとして用いられたのかもしれないと感じる。
“But now, if some of the countries that pay 25% or more on orders complain, remember that Japan was willing to pay up front the $550 billion for that privilege of negotiating with the United States of America,” Trump later added.
Trump admin live updates: Trump denies wanting to cut subsidies for Elon Musk(ABC News)
おそらくこの話を日本側で仕込んでいたと考えられるベッセント財務長官は沈黙を貫いておりラトニック商務長官が自分の手柄として各方面にふれまわっている。
ラトニック商務長官はこれをアメリカが便利に使えるATMのようなクレジット枠だと考えているようだ。TBS/Bloomberも「日本は15%関税枠を”購入”した」と見出しにしている。アメリカの指示に従って日本がプロジェクトを完遂する義務を追いその利益は90%をアメリカ合衆国に差し出すという内容だ。
いろいろな記事を読むとアメリカ側も「この手のファンドを作るのにはかなりの時間がかかる」と理解している。実際にBloombergも実現性を疑っており、ラトニック商務長官も詳細は精査中としている。
関税交渉がまとまっていないヨーロッパも「日本はどうやってこれほどの額を準備するのだろうか?」と疑問視しているようだ。つまりトランプ・ラトニック両氏の発言がそのまま受け入れられているわけではない。
今回非常に興味深かったのは日本側の反応である。
不安を感じると希望的観測に逃げ込む人が多い。まず政治が全くわからない人は「日本政府が国民からむしり取って80兆円をアメリカに差し出す」と感じているようだ。とにかく不安なので冷静さを装ったり大きく出たり中には怒り出したりする人がいる。普通に考えれば成長の原資をアメリカに差し出すと言う話で石破政権が詳細を説明していない以上これを否定することはできない。
自民党政権は「経済対策」と称して民間投資を経済対策規模に取り入れる傾向がある。このためよく「真水で」という言葉が使われる。要するに新規の投資分だけを実質的な投資額として別途算定しようとするのだ。このため内容を確認しないうちから「これは真水ではないのだろう」と勝手に解釈している人もいる。自分で主張するだけならいいのだがこれを他人に説明することで自分を安心させようとする人も出てくる。
Quoraでも「投資は民間のものでありアメリカ合衆国に約束したものではない」と横から入ってきて説明する人がいた。不安になるとむしろ落ち着き払った態度で根拠のないことを言う人がいるのだ。
実際にはそもそもディールができていないと考えたほうがいい。最もわかりやすい説明は「ラピュタの巨神兵」だがこれはアニメファンにしか通じないたとえかもしれない。
ラトニック商務長官は80兆円をすべて真水(新規投資)と解釈しているようだ。しかし石破総理は法的な義務は負わないとしており赤澤経済再生担当大臣の説明もそれに沿ったものになっている。つまりディールが生煮えのままでトランプ大統領に差し出したためにそれがそのまま独り歩きしだれにも止められなくなっている。
日本の国会に説明もせず80兆円の真水を準備できるとは思えないが石破総理にはもはやそのような判断能力は残されていないのだろう。日本では高市早苗総理の出現を恐れて「石破辞めるな」と主張する人がいるが落ち着いて考え直したほうがいい。石破茂氏は総理の器ではなかった。
実際にテレビのコメンテータも同じように説明する人がいる。ただし詳細について突っ込まれると「詳細の文書が出てこないと内容はコメントできない」と逃げてしまう。
石破総理は契約文書は作らず内容はトランプ大統領と石破総理だけが知っていると言う状況を作ろうとしている。交渉の破綻はすなわち関税が25%に逆戻りすることを意味しているためこの立てこもりは国内では一定の成果を上げているようだ。やはりどこまでもアメリカ合衆国にしがみついていたいという人が多いのだろうがこれまで我々が知っていた日米同盟はもう戻ってこないだろう。
日本人は不安になると希望的観測を他人に押し付けると書いたが、Quoraで書いた記事を冷静に判断した人もいたようだ。「どっちみちご破産になり25%に戻るだろうがトランプ大統領の任期まで持ちこたえれば問題ない」とのコメントも寄せられている。
最初からなかったものとして扱えばいいのだがベッセント財務長官は25%関税では日本の自動車メーカーは終わりと警告を発している。
