トランプ大統領がSNSでEUとメキシコに対して30%の関税を予告した。外交交渉が破綻しつつあることがうかがえる。問題はおそらくアメリカ合衆国政府が外交交渉のやり方をよく知らないという点だろう。何を要求しているのかがよくわかっていない上に極めて無礼なのだ。
まず急いでキャッチアップするために経緯をまとめよう。トランプ大統領は4月の頭に各国に対する税率を布告した。「解放の日」と言われていて株価に大きな影響を与えた。しかしながら関税は発効されず90日の延期になった。結果株価は回復し「トランプ大統領は最後に妥協する」(TACO)と言われるようになった。
当初はミラン論文などが引き合いに出され「最後は通貨問題に切り込んでくるぞ」と言われていたがどうもそうではないということがわかってきた。その後何が落とし所なのだろうか?と盛んに議論されているがさっぱり答えが出ない。
7月9日になっても関税交渉はまとまらない。何らかのディールが出てきたのはイギリス・ベトナム・中国だが中国については詳細がわかっていない。結果的に8月1日まで事実上の先延ばしが行われた。少なくとも市場はそう解釈している。
トランプ大統領は8月1日以降は妥協しないと言っている。ところが今回のEUとメキシコに対する関税通告では「ただし交渉に応じる」という文言が入っているようでEU側も最後まで交渉すると言っている。結果的に当初の締切を伸ばしただけだったが、失敗を糊塗するために極めて無礼な「外交文書ともいえない外交文書」を世界中に送りつけてしまった。TBSはEUとの交渉合意は最終調整がつかなかったと交渉の失敗を示唆している。EUは自動報復をすでに決めているため落とし所のない貿易戦争に突入する危険性もある。合意形成型のEUは中国のように独裁的にディールを決められないのだ。
カナダに対する高い関税も目的がよくわからない。フェンタニル対策の不満が理由になっているがカナダから入ってくるフェンタニルはほんの僅か。ナバロ上級顧問はカナダ国民に対して「妥協をするように首相に働きかけるように」と主張しているそうだ。ただしトランプ大統領を満足させるような妥協が成立するとも思えない。そもそもカナダを締め上げたところでフェンタニル問題も解決しない。
なにの成果も得られないので通告書で恫喝して妥協を引き出そうとしているようだ。一体何が落とし所になるのかが誰にもわからない。おそらく交渉担当者にもよくわかっていないのではないかと思う。
アメリカが何を星がているかがわからないうえにそもそも何がほしいのかを相手が理解していない可能性があるのだから交渉のしようもない。市場が動揺すればトランプ大統領も考えを変えるだろうが、市場は市場で「どうせ最後には日和るだろう」と考えており結果的に関税交渉がズルズルと引き伸ばされると言う悲惨な状況になっている。
このような状況で石破総理は「交渉しようにも落とし所がわからずに戸惑っています」というべきだったのかもしれない。
だが実際には舐められては困ると強い口調でアメリカ合衆国を批判した。外務省はかなり困ったのではないかと思うが英語表現は「過小評価は困る」となったようだ。
おそらく石破総理はトランプ大統領に顔を覚えてもらっておらず「日本さん=Mr. Japan」と認識されている。この程度の弱い表現ではトランプ大統領の記憶には残らないだろう。
中国強硬派のルビオ国務長官は「アメリカ依存脱却宣言」を重要視しないコメントを出した。
本音では中国囲い込みのために日本を利用したいと考えているはずだ。トランプ大統領の関税政策に頭を抱えているのか、あるいは自分には関係がない問題だと感じているのかはよくわからないが、産経新聞とFNNは「ルビオさんを刺激しないのは良かった」とほっと胸をなでおろしていた。
石破総理は精神的にかなり危ない状況になっている。
ルビオ国務長官はASEAN外務大臣会談の帰路で在日米軍基地に立ち寄ったようだ。産経新聞は給油のためとしている。ここでなんとかして岩屋外務大臣に接触するようにと命じたのだろう。高知県の選挙応援演説で「今会っている」と発言してしまった。実際には会談は行われておらず岩屋氏がアポを取れなかったことを暴露した形。もはや正常な状況把握が出来ないほど追い詰めら得ていることがわかる。
ルビオ国務長官は中国の王毅外務大臣とは会談しており「トランプ・習近平会談」の調整を行ったと解釈されている。トランプ政権の本音は中国と渡り合えるトランプ大統領と言う認識づくりだろう。
日本は中国囲い込みの道具と見なされており三者会談に呼ばれただけだった。顔も覚えられておらずただそこにいる便利な使い走り程度の認識だ。
岩屋・ラザロ(フィリピン)・ルビオの三者会談と岩屋・朴潤柱外務第1次官・ルビオの三者会談が行われたのみだった。韓国で外務大臣(外交部長官)が出席しなかったのは韓国がアメリカとの接触を避けたのではなくまだ指名手続きが終わっていないからのようである。
ここでもルビオ国務長官とトランプ大統領の認識はズレている。トランプ大統領は関税交渉と絡めて韓国に対して防衛費負担を要求している。
アメリカとしてこれらの国々に一体何を求めているのかが全く整理されないままで各国に対する要求だけが独り歩きしている状況。石破総理はただただ疲弊してしまっているようだ。前代未聞の状況なので一方的に総理大臣を批判する気にはなれないのだが花道を用意してあげてメンツが潰れない形で退陣してもらったほうがいいのかもしれないとは感じる。
最初から総理大臣には向いていなかったのではないか。
