対日戦勝パレードが終了した。今年は66年ぶりに中国・朝鮮民主主義人民共和国・ロシアの指導者が天安門の楼上に上がったとして話題になった。この歴史的なシーンに呼ばれなかったことに腹を立てている人がいる。それがトランプ大統領だ。敵対的な侵略者を追い払ってやったのになぜ自分は呼ばれないんだと腹を立てたのだろう。
トランプ大統領はおそらく人間関係の把握能力に欠陥があり戦略的な思考ができない。このため独立したディールに頼る傾向があり極端な恫喝と称賛を繰り返している。
トランプ大統領は日本を念頭に「アメリカが敵対的な侵略者を追い払ってやった」とSNSで主張した。また「中国の勝利と栄光のために、多くのアメリカ人が命を落とした。彼らの勇気と犠牲が正当にたたえられ、記憶されることを願っている!」と書き込んだ。そうだ。
解説はいらないと思うのだが改めて状況を整理しよう。中国では不動産バブルが崩壊し若年失業率が上がっている。政府は統計から学生を取り除くことで失業率を低く見せているのだがそれでも失業率は17%に登っている。6000社応募しても就職できない人たちが大勢いると読売新聞が書いており、市民の抗議活動も急増していた。
中国共産党は民衆に選ばれたわけではなく武力を使って国民党を追い出し政権を掌握したに過ぎない。選挙は形式的なものにすぎないため、事あるごとに政権の正統性を示し続ける必要がある。
このため中国共産党は独力でファシズムからの戦いに勝利したことになっており今もその戦いは継続中なのだと国内に示す必要がある。
このためSNSではそれなりに「反日」が盛り上がったがリアルの集まりは許されなかったようだ。あくまでも国内統制のイベントだったことがわかる。
この中国共産党の宣伝にうってつけなのがアメリカ合衆国の存在だ。トランプ大統領のいじめに近い関税政策はインドや東南アジアでは極めて不評だ。結果的に今回はタイとフィリピンを除く東南アジア各国の首脳が集結した。フィリピンと同様に領土問題を抱えるインドは経済協力会合にのみ参加し軍事パレードには参加しなかった。
また国際秩序に挑戦したロシアと国民生活を犠牲にしてまで核兵器開発を優先し体制を守っている朝鮮民主主義人民共和国は「欧米中心の偏った世界秩序に対する挑戦者」ということになった。中国は一方的に規則を押し付けてくる欧米との戦いを対ファシズム戦争の継続になぞらえて国民に対して共産党統治の正統性を訴えたのだろう。
おそらくトランプ大統領はこの程度の単純な構図さえ理解できておらず「66年ぶりの歴史的な絵が作られたのに自分がそこに呼ばれないのはおかしい」と不満を示している。
トランプ大統領の関税政策がそもそも不調に陥っている中国の経済を徐々に破壊していることも確かだ。自分の在任中は習近平国家主席は台湾に侵攻しないと主張。ロシア、北朝鮮、中国の幹部が揃い踏みしても中国はアメリカの脅威にならないとの見通しを示しているという。
中国は経済的に追い詰められれば追い詰められるほど何らかの軍事的挑発を通じじて「対ファシズムの戦い」を継続したいという欲求に駆られるだろう。トランプ大統領の在任中ならば事を起こしてもアメリカは対処できないと考える可能性さえある。
