王毅外相がドイツの外相と会談し「日本は中国に武力攻撃を仕掛けようとしている」と主張している。実は中国の日本に対する口撃が戦略的なものだったことがわかる。一方「コンセプト化」が苦手な日本はこれに太刀打ちができてない。
中国の王毅外相がドイツの外務大臣に「敗戦国の分際で中国に挑戦している」としたうえで「分をわきまえた行動を取るべきだ」と主張した。
- 中国外相「日本が軍事的に脅かしている」、独外相との会談で発言(REUTERS)
話を聞けば聞くほど「うまく組み立てられているなあ」と感心してしまう。中国は同時に「日本は中国が軍事演習を行っていることを理解しているのに挑発してきたぞ!」というエビデンスを提示したそうだ。小泉防衛大臣は「そんな事実はない」と反論した。
フェイクニュースは作るのは簡単だがそれがフェイクであると証明するのが難しい。こうした情報飽和作戦はトランプ大統領お得意の戦術である。中国がこうした最新のトレンドを学んでいるのは明らかである。つまり次々と情報飽和を引き起こし反応コストを上げたうえで相手を疲弊させるという作戦だ。
さらに王毅外相の主張も過去から学んだものである可能性が高い。トランプ大統領登場以前のアメリカ合衆国は国際協調路線であった。しかしこれは実際には世界各国で「中国は覇権主義を拡大している」と悪口を触れ回っていたのに等しい。実は中国はこれまでやられてきて嫌だったことを日本に仕返しているという側面がある。
しかしながら日本の世論はかなり危険な状況になっている。経済問題で考えたように日本の政治はコンセプト化が苦手。結果的に日本の政治は問題解決ができなくなっている。しかしそもそも日本の有権者はこの状態に慣れてしまっていて、問題解決よりもアイデンティティを満たすことを政治に期待するようになった。いわばアイデンティティ政治に陥っている。
そもそも今回の一連の出来事を伝える時事通信の記事は全く面白くない。
代わりにYahooニュースで読まれているのが「デイリー」の極めて情緒的な記事だった。
アイデンティティ政治に陥った有権者たちは、高市総理が「中国に対して弱腰の姿勢を見せる」ことを拒否するだろう。一方で日本が中国経済に依存しているという点は評価しない。結果的に「経済など度外視して中国に厳しい態度で望むべきである」と主張し、更に縮小均衡を加速させる。暮らしが悪くなればなるほど「もっとアイデンティティを満足させてくれ!」と要求する。
ただしこうした状況に入ったのは実は2度目である。金融恐慌をきっかけにした経済不調を打破するために国民が求めたのは理性的な問題解決ではなく中国大陸進出だった。当初一部の新聞社はこの姿勢に抗っていたがやがて軍部を翼賛するようになり、第二次世界大戦ですべてを失う直接のきっかけになっている。
コンセプト化が苦手な日本は少ない人数で外交方針を決めている中国に対抗することはできない。結果的に国内統治のために強い敵を必要としている中国の思惑通りに国内世論は強硬化してしまうのかもしれない。高市総理の思慮のない発言はその最初のボタンを押してしまったことになる。

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