中国外交官の発言に体が震えるような思いがした。「汚い首は斬ってやるしかない!」と中国の在大阪総領事がSNS投稿した。一般人であれば逮捕されかねない案件だが外交特権があり発言が守られている。感情的には許しがたいが「そもそもなぜこんな発言が起きたのか」は分析しておきたい。トランプ大統領の台湾政策が見えない以上、日本は今後中国との間で宙ぶらりんな関係を適切にマネージする必要があるからだ。今後も緊張感のある状態が続くものと考えられる。つまりこの程度の発言で動揺していてはこの先やって行けない。
ことの発端は習近平国家主席と高市早苗総理大臣の会談だった。中国国内では中国は高市早苗総理に台湾に対するこれまでの政府見解を遵守するように求めたと伝えられている。
高市総理は国内の支持者向けに一貫した姿勢を見せる必要がありAPECの台湾代表との写真をSNSにアップしている。また国会答弁では台湾有事の際に存立危機事態を認定する可能性があるとした。
中国は国内向けの対面を保つ必要があり強い言葉で高市総理に反発する必要があったのだろう。存立危機事態発言を中国に対する粗暴な干渉としたうえで、総領事の発言を擁護している。この一連のやり取りにグラス駐日米国大使が参戦しちょっとしたお祭り状態だ。
中国の薛剣・駐大阪総領事がX(旧ツイッター)で高市氏の国会答弁を批判したことについては、「危険な言論に対するものだ」と擁護。日本のSNSなどで薛氏に対する「過激で脅迫的な言論」が見受けられるとして、日本側に調査や対応を要求した。
高市首相の台湾有事発言で抗議 「強烈な不満」表明―中国(時事通信)
気持ちの上では総理大臣に対する恫喝に毅然と対応してもらいたいと感じる。日本政府は中国に対して抗議しているが在大阪総領事の発言は外交上好ましからざるものなのだから「出ていってもらいたい」とも思う。
しかしながらこうした感情論から少し離れると「実は政治家たちは支持者たちの手前声を大きくしている」という事情も浮かび上がってくる。
中国共産党は自分たちが日本から中国人民を解放したという物語を維持する必要があり、台湾を含めた「中国の回復」こそが共産党の究極の目標であるとしている。このため拳を振り上げる他ない。
また高市総理も自分の支持者に対して総理大臣になって中国におもねるようになったとは見られたくない。歴代の総理大臣は台湾に対する発言を避けてきたが、高市総理はわざわざこの発言を持ち出している。確かに支持者は大喜びだったことだろう。
歴代首相は、中国が台湾を「核心的利益の中の核心」と位置付けていることを踏まえ、存立危機に該当するか明言を避けてきた。大串氏は撤回を促したが、首相は「最悪のケースを想定して答弁した。実際に発生した事態の個別具体的な状況に即し総合的に判断する」と説明した。
高市首相、台湾有事発言撤回せず 定数削減で解散、否定的―予算委(時事通信)
立憲民主党も立党精神である「憲法遵守」の看板を守るために「この発言に反対」の姿勢を貫かざるを得ない。仮に野田執行部が軟弱な対応を選択すると党内にいる原理主義的護憲派が大騒ぎしかねない。
日本はあくまでも自主的に防衛政策を選択していることになっているが、実際にはアメリカの要請に従って米軍の補完勢力として自衛隊が稼働できるような準備を進めている。さらにこれは軍事戦略ではなくオバマ政権時代の議会事情からくる政治情勢対応だった可能性が高い。そして念頭にあったのは台湾有事とシーレーン防衛だろう。
つまり台湾有事はアメリカ合衆国が台湾防衛に参加することが前提になっている。のだがアメリカ合衆国が台湾有事に参戦する保証はない。
トランプ氏の台湾への姿勢は、いまだ不透明なままだ。同氏は2日放送の米CBS番組「60ミニッツ」のインタビューで、中国人民解放軍が台湾への侵攻を試みた場合、習氏は「何が起こるかを理解している」と語った。
「台湾有事」に米国はどう対応するのか、高市首相も言及-QuickTake(Bloomberg)
加えて中国共産党はアメリカ合衆国の退潮を踏まえて「自由貿易の擁護者」として信頼を勝ち取る長期ゲームとインド、南シナ海、台湾状勢で挑発を繰り返す短期ゲームを曖昧に組み合わせている。
つまり不確実性が非常に高い状態で曖昧にゲームを組み立てなければ変化する国際情勢に対応できないのもまた事実なのだ。
曖昧ゲームに対応するためにはこちらも曖昧にしておくしかない。つまり選択肢としては排除されないが外交戦略上は選択肢を明らかにできないとすべきだった。
しかし、一連の議論を見ていると日本の政治家たちはこの問題を戦争という実利ではなく「アイデンティティ」の問題と捉えている。加えてサスペンデッド(宙ぶらりん)の状況に耐えきれないという気持ちの弱さがあり、結果的に中国の強硬なメッセージに翻弄されているのである。不安に左右されやすいこんな気持の弱さではとても中国の独裁政権に太刀打ちできないだろう。

Comments
“「汚い首は斬ってやるしかない」在大阪総領事の過激な発言に体の震えを禁じ得ないが” への2件のフィードバック
最初は「汚い首は斬ってやるしかない」という言葉を見たとき、慣用句なのかなと思ったのですが、違うようですね。解雇を意味する「首を切る」や「万死に値する」という言葉があるので、そういう風に思いました。
こういう曖昧ゲームを見ていると、外だけでなく内側にも気を張らなくてはいけない点が、私には面倒に感じるので大変だなと他人事のように考えてしまいます。
たしかになんか漢詩っぽいですよね。