9,100人と考えAIとも議論する、変化する国際情勢とあいも変わらずの日本の行方

雇用統計が速報から大幅に下方修正され波紋が広がっている。FOMCは「間違った前提」で意思決定されたということになりつつあり9月の利下げがより強く求められるようになった。何よりも驚いたのが統計の責任者の更迭である。トランプ大統領のポピュリストとしての思考スタイルがよく分かる。

そもそもなぜ雇用統計は大幅に変更されたのか。Bloombergが伝えるところによればそもそも回答率が落ちていたそうだ。4月の解放の日で企業担当者が更に忙しくなったことで回答を後回しにする企業が増えた。不十分なサンプルに季節調整をかけたため誤差が拡大してしまったらしい。

一方で株式市場はギャンブル化している。スマホアプリを持っていれば誰でも簡単に情報を取ることができる。このため速報値であっても過敏に反応してしまう人が増え実際に株価が動いてしまうのだ。

加えてトランプ大統領の異常な性格と思考が問題を更にややこしいものにしている。トランプ大統領はバイデン政権の政策はすべてダメなもので自分の政策はすべて良いものだと考える。そのため統計も彼の考え方に合致したものでなければならない。そもそも統計が不正確なものになっているが、バイデン政権下で雇用の数字が上がれば「自分を落とすための政治的な罠」であり、トランプ政権で雇用の数字が下がればそれもまた「自分を落とすための政治的な罠」であるみなす。

今回は日本でも「とトランプ大統領は根拠なく語りました」などとニュースになっている。アメリカ合衆国は投資市場としての信任を失いつつあるということだ。問題解決思考の大統領なら「なぜ統計が変化したのか」を調査し必要なリソースを加えていただろうが、トランプ大統領はそんな面倒なことはしない。SNSで大騒ぎすれば大抵の問題は解決するだろうと思っている。今回はロシアとの和平を実現するために原子力潜水艦を送り込むと表明した。メドベージェフ元大統領もこれに呼応し「すわ核戦争」という緊張状態が生まれている。

トランプ大統領はFRBに盛んに揺さぶりをかけておりFOMCの議決権を持つFRBの理事の中にもトランプ大統領に呼応する人が出てきている。理事の一人は理由を告げずに任期途中に離脱した。何があったのかは語られていないが結果的にトランプ大統領は次期議長候補を送り込むことができるようになった。

また公共統計の不正確さは問題にならない。本来ならば統計制度を見直し信頼に足るものにしなければならないのだがトランプ大統領は「統計の担当者が気に入らないからクビにする」と言っている。

個人的に気になっていたのは「ヨーロッパがこれらの一連のニュースに嫌気してアメリカから資金を逃避させつつある」という情報だった。とはいえ日本で海外投資といえば米株・米国債でありNISAを使う人にとっては米株がもっとも簡単な為替リスクの回避策になる。

ただしこうなってしまうとドル・ユーロを観察しつつ欧州株に投資するファンドなどについて勉強せざるを得なくなる。円が円安方向に動き出したときも「とはいえ米株は敷居が高いなあ」と思っていたのだが(そもそもアメリカの企業をあまり知らないわけだから)実際に勉強するとそれなりに時間がかかる。同じことをまたヨーロッパに対してやるのか……と思うとかなり憂鬱だ。

実際にレートを調べるとドル・ユーロは年初来12%近くドル安になっている。日本円は米ドルに付随して上がったり下がったりしているが、見方を変えればドルに引っ張られて一緒に地盤沈下していることになる。

今回の一連のニュースで最も特異だと感じたのはアメリカの媒体が「なぜ雇用統計が歪んだのか」にあまり興味を持たずもっぱらトランプ大統領が雇用統計を軽視し担当者をクビにしたことばかりを取り上げているという点だった。Bloombergは専門媒体なのでそれなりに詳しい記事を書いているがBBCも「公共統計は大切だが中小企業が対応を後回しにする傾向がある」と冷静に指摘している。

仮に世界がアメリカから投資を引き上げるようになると代わりに「トランプ大統領が日本・韓国・ヨーロッパと約束し自分が好きに引き出せると主張する」ファンドに注目が集まるかもしれない。日本は文書を作らなければトランプ後に有耶無耶にできるかもしれないという期待があるようだが、トランプ政権末期までにアメリカの投資環境が激変すれば日本にかかる圧力は更に強いものになるだろう。

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