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「戦争省」を巡る不穏な動き 北朝鮮極秘作戦情報の漏洩

8〜12分

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トランプ大統領が国防総省を戦争省にリブランドした。そんなさなか過去の北朝鮮への潜入計画が漏洩している。組織的な証言があったと見られるため軍の内部にトランプ大統領の動きを快く思わない人がいることは確かなようだ。

トランプ大統領は「そんな話は始めて聞いた」ととぼけている。つまりお得意のSNSでの恫喝が通用しない。ありもしない計画で軍の内部を捜査するわけにはゆかない。

トランプ大統領が国防総省を戦争省にリブランドした。大統領に権限がないためニックネームのような扱いになるがWebサイトや看板などが書き換わっているという。

そもそもなぜリブランディングが行われたのか。ヘグセス戦争長官が説明している。

要するにアメリカ建国から第一次世界大戦・第二次世界大戦までをアメリカの黄金期と位置づけ戦後と対比的に扱っている。戦後アメリカは戦争に勝てておらずそれは対話を重視するポリティカル・コレクトネスのせいだとヘグセス長官は主張している。

そこで第二次世界大戦まで使われていた名称を復活させ兵士を再育成すればアメリカの栄光は取り戻せるだろうとの見通しを示す。読売新聞はこれを短く「力による平和維持」への回帰だとまとめている。

この話の矛盾点を見つけるのはさほど難しくない。アメリカ合衆国は一度手に入れた覇権国家の地位を守るためのコストを支払いきれなくなっている。特にMAGAは地上部隊の派遣には極めて消極的だ。にもかかわらず一体どんな兵士を再訓練するというのか。

次にそもそも第二次世界大戦型の戦争が成り立たなくなったのはなぜか。

トランプ大統領が熱望しているノーベル平和賞の創設者はダイナマイトの発明者である。このダイナマイトがヨーロッパを荒廃させたと悔やんでいた。更に現在ではアメリカがその成果を喧伝した(そのために広島と長崎の一般市民が犠牲になった)核兵器が登場し「世界大戦型の戦争が起きれば世界が破滅する」ということがあらかじめわかっている。

つまり大戦型の戦争が起こせなくしたのはアメリカ合衆国なのである。

トランプ大統領の発想の起点は現在起きている社会問題はすべて民主党のせいであると考えている。そのため「意識高い系」の価値観を否定しさえすれば栄光のアメリカ合衆国が戻って来ると考える。ただし歴史に対しては無知なのでかつてのアメリカが抱えていた社会問題などには全く興味がなく、なぜ歴史が転換したのかについても考えない。

国防に対する考えも薄っぺらだ。アメリカ全土をゴールデンドームと名付けたミサイル防衛システムで覆った上で宇宙を支配すればアメリカ合衆国の権威は揺らがないと考えている。

トランプ政権下の国防総省はこのメチャクチャなトランプ政権の価値観に翻弄されている。そんな中で起きたのがThe New York Timesの漏洩記事だった。かなりの人数に確認を取ったと伝えられており組織的な造反があったことがわかる。CNNなど各社が短くまとめている。

トランプ大統領は当初北朝鮮に対して核兵器を開発しないようにと恫喝していた。ところが2018年5月に文在寅大統領にノーベル平和賞をちらつかされたことで心がゆらぎ一転して金正恩総書記にへつらうようになった。結果的に2018年6月にシンガポールでトランプ・金正恩会談が成立。さらに2019年にトランプ大統領が板門店に出向き金正恩総書記と一緒に境界線を越えている。今回のNavy SEAL上陸作戦が行われたとされるのはこの2019年である。対話を持ちかけながらも裏では北朝鮮に忍び込み盗聴器を仕掛けようとしていたということになる。

この政策は失敗し金正恩総書記は核兵器の開発を成功させている。

今回の報道は北朝鮮の指導者に対して「トランプ大統領は裏表のある人物である」と知らしめる効果がある。Navy SEALは北朝鮮に潜伏したものの浜辺で小舟に遭遇。慌てて小舟に乗っていた人たちを殺害したとされる。しかし小舟に乗っていた人たちは貝を採ろうとしていた一般市民だった。深夜に貝掘りなどするはずはないのだからお腹をすかせた密猟者だったのかもしれない。したがって北朝鮮当局がそれを知っていたかどうかは不明だ。

さらにトランプ政権に対しては「極秘任務を漏洩する覚悟がある」と示す効果もあるのではないか。ABCニュースによればトランプ大統領はこの作戦を極秘かつ個人的に命じており議会にも失敗を報告していなかったそうだ。仮にこれが唯一の「極秘かつ個人的な」作戦でないとすれば「他にもバラされたくないことはありますよね」と大統領にはその真意が伝わっているのではないかと思う。

トランプ大統領はそんな話は初めて聞いたと作戦の存在を否定した。これでSNSを使った恫喝は難しくなる。ありもしない漏洩の調査を命じることはできないからだ。