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「影のキーマンの不在」 高市早苗総理大臣の経済政策はどのように行き詰るのか

15〜22分

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なぜ、高市早苗政権下で、日本の経済・安全保障政策は不安定さを増しているのか。本稿では、その原因をイデオロギーや制度設計の問題ではなく、かつて政策運営を支えてきた非公式な人間関係ネットワークの弱体化に求める。

外交・安全保障と経済を結びつけたはずの高市内閣は、経済対策で失敗するだろう。すでに日本について研究している人は、日本の組織の成否が制度や方針ではなく、人間関係によって決まることを理解しているはずだ。その人間関係が、高市政権ではかなり脆弱化している。

しかし、こうした内部情報は英語翻訳の時点で削ぎ落とされてしまう。そのため、英語圏の人々が高市政権の現在地を理解するのは、極めて難しいと推察される。

共同通信は「首相、経産官僚を重用 成長加速へ安倍路線踏襲」という記事を出している。しかし、何を書いているのかはよくわからない。状況を整理すると、「脱今井化」が進んでおり、経済産業省出身の人々が中枢に入ったと読み解くべきである。

その代表例が、筆頭格の政務担当秘書官・飯田祐二(いいだゆうじ)氏、政府の広報戦略を担う内閣広報官・佐伯耕三(さえきこうぞう)氏、木原稔官房長官の首席秘書官・茂木正(もぎただし)氏である。

共同通信は今井尚哉(いまいたかや)氏についても触れているが、そもそもなぜこの記事で今井氏の名前が出てくるのかはよくわからない。

今井氏については、いくつかのことがわかっている。まず、週刊新潮の報道によれば、総理大臣執務室に自由に入れるのは飯田祐二首席首相秘書官(62)のみである。総理大臣が気を許しているのは、木原稔官房長官(56)と飯田氏だけだという。

共同通信は「今井尚哉氏が今回の解散のシナリオを書いた」としている。しかし、これは政界事情に詳しい田崎史郎氏によって否定されている。

おそらく田崎氏が言いたかったのは、「高市総理は今井尚哉氏の言うことを聞かなくなっている」という点だろう。しかし、テレビで露骨な批判をするわけにもいかないため、「リーダーとしての強烈な魅力を印象付けた」という、主張とは異なるまとめ方になっている。

「安倍元首相の懐刀であった今井尚哉氏(元首相秘書官・現参与)でさえ、今回の冒頭解散には反対し、年内解散を進言していた。しかし、高市氏はそれを振り切り、木原稔官房長官らごく少数の側近だけで解散を断行した。『過半数を取れなければ責任を取る』と当たり前のことをあえて明言し、公認候補を『私が選んだ候補』と強調して回った。こうした『身を張る』姿勢や、リスクを恐れず自身の責任を明確にする振る舞いが、リーダーとしての強烈な魅力を印象付けました」

自民大勝の理由は何か 田崎史郎氏が分析 言動から見える高市首相のリーダーシップ(スポーツ報知)

今回の解散のきっかけは、読売新聞によるリークだった。もともと今井尚哉氏は早期解散を主張していたが、高市総理は踏み切れなかったと、週刊現代で森功氏は指摘している。しかし、情勢調査の結果が芳しくなかったため、木原稔氏ら一部の側近が主導して解散を決めたのである。

また、今井尚哉氏はアメリカの投資ファンドであるカーライルとの関係を維持しており、「アドバイザー以上」の役割を果たそうとしていない。もともと高市政権とは距離がある。

では、なぜこれが問題になるのか。

英語圏の人々は、「機関には目的や方針がある」と考え、「その方針は何か」を知りたがる。しかし本稿では、一貫して「細かな人間関係」に注目し、「目的や方針」への言及がほとんどない。そのため、「要するに何が言いたいのか」と感じて脱落する読者が多いだろう。

しかし、日本では「組織には組織の理屈がある」と考えられている。また、明文化された役割分担を嫌う文化があるため、その都度、組織間の利害調整が必要になる。その結果、表の権力者と裏の実力者が分離する。そして、実際に組織が機能するかどうかは、裏の実力者にかかっている。

これが「影のキーマン」である。

安倍政権では、菅義偉氏が政治分野を取りまとめ、今井尚哉氏が経済政策のみならず外交政策も統合していた。ここから生まれたのが、日本流のサプライサイド経済学である。製造業を復活させるために、安全保障を絡める手法だ。

アメリカの伝統的なサプライサイド経済学は、レーガン政権に代表されるように、市場メカニズムと減税を通じて供給能力を高めるモデルであった。一方、近年の民主党政権は、環境政策と国家投資を軸とした産業政策へと転換している。これに対し、日本のモデルはどちらとも異なる。日本は安全保障環境を起点として産業構造を再設計し、製造業と地政学戦略を統合する形で供給能力を強化してきた。

日本の産業政策は、自前の理論に基づいて設計されたというよりも、対米関係との整合性や目先の危機対応を優先する中で、その時々のアメリカ型モデルを部分的に模倣してきた。その結果、政策の背後にある思想や長期戦略は十分に整理されないまま運用されている。

新潮の報道によると、高市早苗総理は片山さつき財務大臣とは意思疎通ができるものの、茂木敏充外務大臣とは十分に話ができていないという。また、今井尚哉氏も高市政権と距離を置いており、台湾問題では激しく衝突したとされる。解散戦略への関与も限定的だった。

つまり、理論化が十分に進まないまま、今井氏のような政策統合の中心にいた人物が抜けてしまうと、そのまま経済と安全保障を絡めた「高市サプライサイド政策」が瓦解してしまう可能性が高まる。そして、その影響は、実際にその人物が抜けた後になって初めて、「何が壊れたのか」が可視化される構造になっている。

もちろん、次世代の飯田氏や佐伯氏、また城内実担当大臣が、今井尚哉氏に代わる「ハブ」になれれば問題はない。今後の注目点だろう。

では、属人的な政策実行を機関的な政策実行へと転換することは可能なのだろうか。持続可能性の観点から見れば、それが理想である。しかし実際には、官僚組織は高市政権に対して慎重な距離を保っている。

ロイターの日本向け記事によると、経済産業省は「勝ちすぎてしまったから、安全運転で行くしかない」と距離を置いているという。別の匿名の政府関係者は、「高市氏の政策は一種の社会実験であり、うまくいかなかったとしても、それは国民の責任だ」と突き放している。

日本の外務省は2001年まで独自の試験制度を採用しており、現在の幹部層は「独自の島宇宙」を形成している最後の世代である。その外務省は台湾有事問題では高市総理を積極的に支援せず、「岡田克也氏には説明した」と自己弁護に走った。おそらく高市政権下で彼らが高市総理に貢献することはないだろう。

つまり、通常の状況であっても、現在の日本政権は外交政策を外務省に十分に頼れない。さらに今井尚哉氏が政権から距離を置きつつあるため、高市総理は代替となる官僚を探している。

これに加えて、高市政権は不確実性の高いトランプ政権とも対峙しなければならない。

昨年のミュンヘン安全保障会議では、バンス副大統領がヨーロッパに挑発的な発言を行った。今年、ルビオ国務長官は比較的融和的な姿勢を示しているが、欧州諸国はもはやその発言を額面通りに受け取っていない。「トランプ政権の真意」がどこにあるのかを探っている。トランプ大統領は、安全保障を経済ディールの交渉材料として使うことが多い。そのメッセージの解釈には、戦略的なデコードが必要である。

しかし、日本はもともと組織的な分析力が弱く、こうした作業を個人の能力に依存してきた。

今回、対米交渉を任されている赤沢亮正大臣は、もともと石破茂前総理の側近であり、高市総理との関係は強くない。第一回の投資案件ディールは不発に終わっている。

高市総理が選挙で勝利した要因の一つに、「疑似大統領制」への期待がある。複雑な利害調整に疲れた国民が、「誰かが魔法のようにすべてを解決してくれる」存在を求めたのである。

しかし、高市総理が実際に何を目指しているのかを真剣に考えた有権者は多くなかった。官僚や自民党政治家が恐れているのは、この「契約の曖昧さ」だろう。

さらに、日本の制度や組織文化は、大統領型の強いリーダーを支えるようには設計されていない。

この期待と現実のズレこそが現在の日本における最大の政治的リスクとなっている。高市総理が自らのこの脆弱性に気づき、属人的政策管理を機関的政策管理に移行させられない限り、高市政権の経済政策はやがて行き詰ることになるだろう。

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