前回、2025年のノーベル経済学賞の受賞者を研究した。今回はその続きとして2024年のノーベル経済学賞で脚光を浴びた「国家はなぜ衰退するのか」をAI要約で読んだ。本自体は2016年にハヤカワ文庫に入っている。
国家を包摂国家と収奪国家に分けたうえで、国家が繁栄するためには包摂国家こそがふさわしいと主張している。日本は基本的には包摂国家だが制度の硬直化が進み成長を阻害していると分析されている。
包摂国家は収奪国家に陥る危険性を内包しているが、いずれ制度劣化を起こし「必然的に衰退してゆくのではないか」という運命論は取っていない。その意味では国家の栄枯盛衰を記述した歴史書とは違ったアプローチを採用しているといえるだろう。
AI要約で本を読むことついては賛否両論あるだろう。そもそも本が売れなくなってしまう。ちなみに書籍は上下巻でハヤカワ文庫から出ている。リンクはAmazonのアフィリエイト。
- 国家はなぜ衰退するのか(上):権力・繁栄・貧困の起源 (ハヤカワ文庫 NF 464) 文庫 – 2016/5/24
- 国家はなぜ衰退するのか(下):権力・繁栄・貧困の起源 (ハヤカワ文庫 NF 465) 文庫 – 2016/5/24
こうした倫理的な問題を除いてもAIまとめには「単に要約してくれ」とオーダーするととりとめのない内容になってしまうという弊害がある。まずは内容に当たりをつけたうえで、どうまとめてほしいのかを明確に示す必要があるようだ。
今回はこのようなアプローチを取った。
- 基本的にこの本が包摂国家と収奪国家についてまとめているという認識を理解したうえで
- アメリカ・日本・中国が包摂国家なのか収奪国家なのかを分析するように依頼し
- 包摂国家はかならず収奪国家状態に陥ってしまうのか?を聞く
という手順で進めた。
最後にClaudeで「アーティファクトを作ってください」とお願いすると最終成果物がレポートとして出てくる仕組み。Claudeはレポートのまとめ方が優秀である。一方の初期まとめは必ずしもClaudeに聞く必要はない。
「国家はなぜ衰退するのか」は、国を収奪国家と包摂国家に分けている。アメリカと日本は包摂国家で中国は収奪国家である。国が継続的に成長するためには包摂国家であることが重要。ソ連や中国のような収奪国家が一時的に成功したのは収奪国家でもキャッチアップ型のイノベーションが可能であることを示しているがやがて経済成長のインセンティブが失われることで成長は止まるだろうと予測されている。
この本はアメリカ合衆国の事例について第一次トランプ政権しか参照していない。トランプ大統領は一時的な現象であって制度がトランプ大統領の暴走をかろうじて防いでいると分析。第二期政権で起きている不可逆的な変化については織り込んでいない。
この中で日本は基本的には包摂国家であり現行憲法のもとでさらに包摂化が進んだとしている。しかしながら政権交代が起こらなかったことなどで制度の硬直化が進み成長を妨げていると分析する。
このようにどの国家にも「収奪化」の危険はあるが、必ずしもすべての包摂国家が収奪国家化するわけではない。レポートはアルゼンチン(収奪国家化が進んだ)と韓国(IMFショックにより制度が解体され包摂国家化が進んだ)の事例をまとめていた。
日本版には日本に対するメッセージが加えられている。勇気を持って今の構造を替えてゆけば日本が再成長することは不可能ではないとしている。
2024年と2025年のノーベル経済学賞の継続的なメッセージは「イノベーション」に着目し、社会がイノベーションを通じて再成長するためにはどのような道筋をたどるべきなのかを示している。この「成長至上主義」が必ずしも正しいかどうかはわからないが、現在の社会保障の維持を前提にすると日本は経済の再成長を追求せざるを得ないのではないか。
2025年のノーベル経済学賞のメッセージは「イノベーションが涵養されるためには適温というものがあり」国家は企業があまりやりたがらないイノベーションの基礎部分と成長からこぼれ落ちた人たちを担当すべきだと主張する。
これはイノベーションを人生に例えるとわかりやすい。成長期にあるイノベーションには投資が集まるがその初期(イノベーションの卵をたくさん作る基礎研究の段階)と死期の面倒を見たがる人は多くない。しかし当然ライフサイクルには始まりと終りがあるのだから「誰かがその面倒を見なければならない」ということだ。
つまりこれらの研究結果をまとめると次のようなことがわかる。
- 高市政権は収奪国家化を目指すべきではない
- 高市政権は国家目標を絞って戦略的投資を進めるべきではない
最後になぜ今回「国家はなぜ衰退するのか」を研究したのかについて書く。当ブログでは「日本の経済政策には核となる考え方がない」と批判している。ではその核になる考え方とは何なのか?という疑問が自ずと生じるはずだ。
当初「政治学の基礎的な本を読んで基礎を固めるべきでは?」と考えたのだが、国家の統治機構を分類したり国家権力はなぜ必要なのかについて考えたものが多い。
そこで興味の対象をしぼるため、今回は「成長」について考えることにした。この文章の内容についてはさまざまなご意見があるだろう。ぜひご自分で本を手に取るなりAIで当たりをつけるなどして独自の探索を行っていただきたい。
- 国家はなぜ衰退するのか(上):権力・繁栄・貧困の起源 (ハヤカワ文庫 NF 464) 文庫 – 2016/5/24
- 国家はなぜ衰退するのか(下):権力・繁栄・貧困の起源 (ハヤカワ文庫 NF 465) 文庫 – 2016/5/24

“「国家はなぜ衰退するのか」で読む、日本が再成長するための処方箋” への1件のコメント
[…] 前の投稿で触れた「日本の再成長のために必要な処方箋」は次のようにまとめた。日本は収奪国家化を防ぎ、思い切った構造改革による再成長を目指すべきである。さらに国家は選択的な投資をするのではなく、イノベーションサイクルの「卵と死期」の面倒を見るべきだ。 […]