テレビが小泉米劇場に席巻された一週間だった。テレビは様々な理由で備蓄米プロパガンダを行っていたがSNSは冷静だった。JCASTが「イオンでは備蓄米が余っている」とのネットの声を伝えている。
テレビがどんな理由で政治宣伝を行うのかがよくわかっただけでなくそうした手法が通じにくくなっていることも明らかになった。
JCASTニュースが「イオンで備蓄米が積まれていた」とする記事を書いている。取材をして発見したわけではなくSNSの報告によるもの。全国にいる「特派員」たちは冷静に様子を見ていたようだ。JCASTニュースがイオンの広報に確認した所、完売はしていなかったという。
Quoraで「一人市場調査」と自虐的に表現していた全国のコメ売り場の様子がボチボチと報告されるようになった。何でもお願いしてみるものだなあと感じる。どうやらこれまで不足感を演出していたスーパーマーケットにコメが並ぶようになったそうだ。高止まりしていたコメの価格はやや下落するのかもしれない。時事通信によると5キロあたりの平均店頭価格が4260円とやや下落したそうである。
テレビは様々な理由で小泉米劇場を盛り上げようとした。「プロパガンダ」と表現したがその背景は様々で、政府がメディアに命令したわけではない。
第一に国民の間に根強い食品価格値上がり疲れがある。皆様の空気に逆らって冷静な報道に終止すれば視聴者に攻撃されかねない。
また政治報道離れが進んでおり政治報道がわかりやすいスターを求めている。一部のテレビは小泉進次郎氏に深い思い入れを持つ田崎史郎氏を積極起用し江藤前農水大臣と農水省を貶める発言を流していた。
さらに小泉氏の改革に期待する人達がいる。玉川徹氏がその筆頭だ。「流通米は決してまずいわけではない」と強調したうえで「美味しい炊き方などという報道を流せば対策をしなければ食べられないコメだとミスリードしかねなかった」と声高に主張した。視線を送られた羽鳥慎一氏は玉川徹氏に忖度しつつ次のパートを進めざるを得なくなった。
政治の側が政治宣伝を要求したというよりはメディアがそれぞれの事情から一定の方向に世論誘導をしようとしたということがわかる。これが「空気」である。戦前に朝日新聞が方針を変えて軍部の大陸進出を支援したのに似ている。国民の間に軍部が経済を打開してくれると言う期待が強かっただけで、政府から命令されたわけではなかった。ただし、戦況が悪化するとメディアは言論統制を受けるようになってゆく。
ただし現在と戦前の違いはSNSの発達具合だ。SNSを通じて海外や現場からのニュースが様々な形で報告される。テレビや新聞などのメディアはいろいろな理由で偏向報道を行うがそれに対抗する手段も整備されつつあるといえるだろう。
一方でネットも陰謀論の巣窟になりかねない。アメリカ合衆国ではトランプ大統領が「バイデン大統領はすでに処刑されておりクローンに置き換えられている」という論を垂れ流しているそうだ。
今回の小泉米劇場は備蓄米の放出を通じて国民が食費高騰にかなり苛立っているという姿を可視化してしまった。野村元農水大臣の発言は自民党守旧派対新星小泉進次郎という単純化された水戸黄門構図を作り出しかねない。
そこで自民党幹部のおじいさんとおじさんたちは備蓄米を食べて「おいしいおいしい」と太鼓判を押した。別のエントリーでまとめようと思うが、自民党は「解のない問題」を解くことを求められておりこのまま議論によって自壊するかもしれない。
スーパーマーケットは「今回の備蓄米放出でコメの価格が全般的に下る兆候はない」としているが、集客に安いコメが使えるということは学んだようだ。セブンイレブンが一部のおにぎりを4日間限定で100円で販売するという。
Quora特派員の感覚が正しければコメの価格高騰は「高止まりした本来の価格」+「品薄感の演出によるプレミアム」に分解できる。これまでコメが並んでいなかった店に在庫が置かれるようになったと言う報告もあり、若干の価格低下は見込めるかもしれない。
そもそも「品薄感の演出」が本当に行われていたのかはわからないが少なくともそう疑っていた消費者はいたということになる。
