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「人を見せてくれれば、その人に罪を見つけてやる」 トランプ政権は大粛清時代さながらの様相

11〜17分

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トランプ大統領がジョージ・サントス元上院議員を減刑した。背景事情はよくわかっていないが不満を高める過激なMAGA共和党議員の取り込みが目的なのではないかと感じる。

一方で政敵のボルトン氏は「日記をつけていた」ことを理由に機密文書持ち出しの罪で起訴された。歴史に造詣が深いボルトン氏はスターリン時代の「人を見せてくれれば、その人に罪を見つけてやる」を引き合いにトランプ大統領を批判した。粛清したい人物に対して罪をでっち上げるという意味になる。

経歴詐称の罪で服役していたジョージ・サントス元上院議員が突然減刑された。背景事情は説明されていないが、トランプ大統領は「サントス氏が独房でひどい扱いを受けていた」から助けてやったと主張したそうだ。「グッドラック!素晴らしい人生を」と祝福している。

ABCニュースによれば背景には共和党議員らの助命嘆願があったようだ。Googleの機械翻訳によれば次のようになる。

弁護士は、マーティン氏とトッド・ブランシュ司法副長官が減刑の成立に非常に協力的だったと述べ、共和党の下院議員マージョリー・テイラー・グリーン氏、ローレン・ボーバート氏、ティム・バーチェット氏を含む数人の議員が彼の釈放を求める運動に非常に熱心だったと指摘した。

George Santos released from prison after sentence commuted by Trump(ABCニュース)

この中に出てくるマージョリ・テイラー・グリーン氏は陰謀論も取り混ぜる熱心なトランプ支持の下院議員。しかし最近では連邦政府閉鎖に腹を立てていた。インフレ抑制は進んでいないが、トランプ大統領は次々と外国要人との面会を繰り返している。特にアルゼンチンには条件付きの支援を申し出ており「これではアメリカラストではないか!」と怒っている。

ABCニュースによると独房でひどい扱いを受けていると主張していたのはグリーン氏なのだそうだ。今回のサントス氏の釈放にはこうした怒りを和らげようとするトランプ大統領なりの「配慮」があるのだろう。

トランプ大統領はこの過程でいつものように民主党を攻撃している。ウソを付くことが比較級で語られている。この理屈で言えば「相手が嘘をついているなら自分も嘘をついていい」ということになる。

減刑を発表したトランプ氏は、民主党のリチャード・ブルーメンソール上院議員が軍歴を捏造(ねつぞう)したと非難し、サントス元議員を減刑することを正当化した。「これはジョージ・サントスのしたことよりもはるかに悪質だ。少なくともサントスには常に共和党に投票するだけの勇気と信念と知性があった!」とトランプ氏は書いた(太字は原文では全て大文字)。

トランプ氏、詐欺で服役中のサントス元共和党議員を減刑 「素晴らしい人生を!」と祝う(BBC)

一方でトランプ大統領の私的報復も続いている。政敵と呼ばれる人物を次々と起訴しているのだ。ボルトン元補佐官は詳細な日記をつけていたことで知られる。FBIもそれは把握していたようである。しかしながら「日記を妻と娘に送ったことは機密文書の漏洩にあたる」という理由で起訴された。

ボルトン氏は今回の件でスターリン時代の秘密警察のトップの発言を引き合いに「大粛清時代が始まった」と表現している。

In a statement, Bolton said he has “become the latest target in weaponizing the Justice Department,” and argued that Mr. Trump “embodies what Joseph Stalin’s head of secret police once said, ‘You show me the man, and I’ll show you the crime.’”

Former Trump adviser John Bolton indicted for allegedly mishandling classified info(CBS)

この言葉アンドレイ・ヴィシンスキー(Andrey Vyshinsky)氏かラブレンティ・ベリア(Lavrentiy Beria)氏の言葉として知られているのだという。秘密警察のトップはベリア氏を指しているものと見られるがスターリン時代には広く使われていたようだ。

もともと「誰か粛清したい人物がいればその人にピッタリの罪を作ってやる」という意味で、トランプ政権下で横行する現象をかなり的確に言い当てている。ヴィシンスキー氏は自白があれば罪状認定できると言う原則を打ち立てたそうだ。ソ連では拷問を通じて自白を引き出すようなことが盛んに行われていたのだろう。

当時のソ連では激しい権力闘争が行われており「やるかやられるか」という状況だった。ヴィシンスキー氏も自分が粛清されるのではないという強迫観念に駆られていたそうである。

一方でトランプ大統領にはそこまでの強迫観念はなさそうだ。ただし自己肥大した名誉欲を傷つけるものを決して許さないという私的な恨みは感じる。また大統領執務中の行為には大幅な免責が認められており万能感も強まっているのかもしれない。

この件で一番気になるのは「嘘をついて議員になった人が減刑され」「政敵が私的動機により粛清される」ことがアメリカ合衆国民の倫理と民主主義にどんな影響を与えるかである。

不思議なことに倫理が根底から覆されてもアメリカ合衆国が崩壊に向かっているという兆候はない。むしろこれまでのアメリカ合衆国でも法律はお金や権力を持っている人たちに「武器化されていた」のかもしれないと感じる。また株価だけに注目すれば経済も絶好調だ。

仮に倫理崩壊が国家秩序を破壊したり経済破綻に結びつかないのならば「別にこれくらいのことは構わないのかもしれない」とすら感じる。それほどアメリカ合衆国ではこの手のニュースが蔓延している。

だがやはり倫理の崩壊は何らかの形で国の基本的な価値観を次第に蝕んでゆくのではないかという気がするのだが、それを裏付ける証拠は今のところ出ていない。