安倍さんの嘘と抑止力という安全神話

安保法制を巡って、当初安倍首相は2つの事例を挙げて「これは日本人を守る法案だ」と説明してました。ホルムズ海峡の機雷掃海と朝鮮半島(とおぼしき外国)から退避する邦人の保護です。
ホルムズ海峡の事例はしばらく前に取り下げられました。イランとアメリカが関係を修復したために、ホルムズ海峡に機雷がまかれる可能性がなくなったからです。これについで、朝鮮半島から退避する邦人を保護するという事例でも、集団的自衛権が行使できるかどうか怪しくなってきました。(東京新聞 – 米艦防護の条件めぐり 防衛相、邦人乗船「絶対でない」
この朝鮮半島の件には予兆がありました。先だって安倍首相は「朝鮮半島で有事が発生しても日本には重大な影響がない」という趣旨の発言をしたのです。ちょうど北朝鮮が準戦時状態に入っており、朝鮮戦争の可能性が出てきたために「日本が朝鮮戦争に巻き込まれるかもしれない」という議論を怖れたのかもしれません。これを聞いてネトウヨの人たちは「日本は韓国を見放す宣言をした」と大喜びしました。しかし、朝鮮戦争が有事でないならば、半島から邦人が逃げてきても集団的自衛権は発動できないことになってしまいます。
では、なぜ根拠のない集団的自衛権を通す必要があるのでしょうか。それはアメリカを防衛するためです。伝わってくる情報は断片的ではありますが、いくつかの事例があります。一つは安倍首相が訪米時に「北朝鮮がアメリカにミサイルを撃ってきたら、迎撃してあげる」という約束をしています。もう一つはアーミテージ元国務副長官がNHKへのインタビューで語った「日本周辺でアメリカ人を守るため自衛隊員も命を懸けるという宣誓なのだ」という台詞です。
アーミテージ氏のいう自衛隊の米軍護衛は、平時であれば特に国会の承認などが要らないことが民主党の質問で分かっています。平時からなし崩し的に緊張状態に陥る可能性があります。
ここから分かるのは「邦人保護」とか「国益を守る」というのはあくまでも国内向けの説明であって、本当の目的ではないということです。本当の目的はアメリカの保護なのです。
明らかに安倍首相は嘘をついているのですが、この文章の目的は安倍首相の嘘を非難し日米同盟など守る必要がないと主張することではありません。むしろ、安倍さんの嘘が日米同盟と自民党を危機にさらす可能性が懸念されます。
善意に解釈すると、安倍首相はアメリカを喜ばせようと考えて米国向けに「日本はアメリカを守る国になる」と宣伝し、日本人が心配すると思って「たいした事は起こらない」言っていると考えることができます。
何事もなければ、この2つは矛盾なく両立します。ところが、いったん何かが起こるとどちらかを満足させられなくなるでしょう。アメリカの圧力を怖れて内閣が有事を宣誓すると自衛隊に多くの死傷者がでて、国内世論が動揺する可能性もあります。一方、国内世論の動揺を怖れて内閣が知らないふりをすると、裏切られたと感じたアメリカ政府は日本に有形無形の圧力をかけるでしょう。もしかしたら、それは危機が去った後も続くかもしれず、日米同盟の空洞化が進む可能性もあります。すると、日本人は日米同盟への疑問を募らせるようになるでしょう。
この構図は原発に似ています。日米同盟が強固ならば何も起きないという「抑止力論」はつまりは、原発の安全神話と同じことなのです。法案が成立すれば、政府には有事の想定を「なかったこと」にしようとする圧力が働く事になると思います。
いったん事故が起こり国民保護の大義がなかったと国民が気づけば、国民世論は一気に「集団的自衛権行使反対」に傾くはずです。原発事故後に原発への反対世論が一気に進んだのと同じです。
事故後、原子力発電所の再開の判断は原子力規制委員会に丸投げされました。内閣への風当たりを避けたものと考えられています。しかし、安保法制では有事の判断をするのは内閣なので、日米双方からの圧力をまともに受けるものと思われます。逃げ場はありません。事故の際に地元への対応に追われるのは自民党と公明党の議員たちでしょう。
政権を賭してまでアメリカを守る覚悟があるとすれば、それはそれで立派な態度だと言えるかもしれません。しかし、安倍政権は本当にそこまでの覚悟があって、この法案を通そうとしているのでしょうか。

なされなかった鎮魂

昨日、国会審議で山本太郎議員が「広島への原爆投下は市民の大量殺戮で戦争犯罪だと思うが、政府は米国政府に謝罪を求めないのか」というような意味の質問をしました。しかし、岸田外務大臣も安倍首相も明確な言動を避けてお茶を濁しました。
このやりとりを聞けば、多くの日本人が「日本政府はアメリカに頭が上がらないから、言い出せないのだろう」と思うのではないかと思います。しかし、実際は違います。オバマ大統領には謝罪の用意があったと言われています。
アメリカABCがJapanese Government Nixed Idea of Obama Visiting, Apologizing for, Hiroshimaという記事を伝えています。nixとは拒否するという意味だそうです。日本政府がオバマの謝罪を拒否したのです。ウィキリークスの暴露を受けた記事でした。
当時、オバマ大統領は核廃絶への意欲が評価されてノーベル平和賞の受賞が決まっていました。一方。日本は政権交代の最中にありました。そこでルース駐日大使と会談した薮中三十二という外務省の官僚が「日本は準備ができていない」といって、勝手に断ってしまったのです。
今となってはオバマ大統領の謝罪がどのようなものだったのかは分かりません。もしかしたら単に広島を訪れて頭を下げるくらいの遠慮したものになっていた可能性もあります。しかし、それだけでも内外に大きな影響を与えていたでしょう。
確かに、いくら謝っても広島や長崎で亡くなった人たちが戻ってくるわけではありません。しかし、ご高齢になった遺族の方の気持ちはいくらかは休まったでしょう。それよりも大きいのは広島訪問が米国民に与える影響です。アメリカでは広島や長崎で何が起きたのかを知らない人が意外と多いのです。
では、なぜ日本政府はアメリカの謝罪を断ったのでしょうか。ウィキリークスの原文には「反核運動の増長を怖れたから」だと書いてあります。原子力発電所への反対運動に拡大することを怖れたのでしょう。今や死にかけている左派の運動にオバマ大統領がお墨付きを与えるなど、あってはならないことだったのではないかと思います。
日本政府がオバマ大統領の申し出を断ったのは、国内の勢力争いのためだったのです。
確かにこの謝罪は左派を勢いづかせることになったのかもしれません。しかし、よく考えてみて欲しいのですが、人道的な配慮に右や左といった違いがあるのでしょうか。もしあるとすれば、右派の人たちは「広島の犠牲者は国体を守る為には必要な犠牲だった」と考えるのでしょうか。その国体とはどのような物なのでしょうか。
いずれにせよ、謝罪はなされませんでした。薮中さんは外務省を去り、何があったかを聞く事もできません。政府がウィキリークスのような「不正に得た情報」についてコメントすることもないでしょうし、政府が伝えなければマスコミが報道することもないものと思われます。
今アメリカでは、ドナルド・トランプ大統領候補が「イスラム過激派に核兵器をぶち込む」と主張しています。都市が丸ごと破壊されると指摘する識者もいるのですが、トランプ氏に言わせると「多少の犠牲はつきもの」なのだそうです。今でもこのように考えるアメリカ人は少なくないのです。どこかで誰かが反省しなければ、こうした考えがなくなることはないでしょう。
このエントリーを読んで「ふーんひどいこともあるものだな」と考えることは誰にでもできると思います。しかし、もし「戦争犯罪はなくした方がいい」と考えるなら、それだけでは不十分だと思います。一人でも多くの人に、こうしたことを伝えてゆく責任があると思うのです。

ドナルド・トランプ語録 – 日本を敵視

共和党の大統領候補のドナルド・トランプは遠慮のない物言いで共和党の大統領候補の中でダントツの人気を誇っているが、ほとんどが英語で日本人にはあまり知られていない。演説内容は主に内政に関するもので、日本への言及は必ずしも多くない。そこで、様々な演説から日本に対して言及している部分を拾ってつなぎあわせた。
こうした演説がもてはやされているのを見ると、共和党支持者の白人は被害者意識を募らせていることがわかる。有色人種はアメリカに移民として押し寄せ、外国でもアメリカの仕事を奪っている。中国、日本、韓国、メキシコ、サウジアラビアなどの有色人種の国が名指しされる一方で、ヨーロッパやカナダなどの白人国が批判の対象になることは少ない。
共和党候補者が大統領になれば、これまでの対米交渉はすべてやり直しになるかもしれない。安保法制やTPPなど、国論を二分してまで大騒ぎする必要が本当にあるのか、充分に考えた方が良い。日本がアメリカに尽くしてみせても、相手には意外と伝わっていないということがわかる。
以下、トランプ語録。
私のメッセージは「アメリカを取り戻す(Make America Great Again)」だ。アメリカを再び金持ちで偉大な国にしなければならない。中国はアメリカの金を全て奪っている。メキシコ、日本、その他の国々もそうだ。サウジアラビアは多額のドルを1日で稼いでいるのに、アメリカの保護に対して何の対価も払わない。だが、正しいメッセージを発すれば彼らは対価を払うだろう。
四月にはツイートでTPPに対する意見を表明した。TPPはアメリカビジネスに対する攻撃だ。TPPでは日本の為替操作は防げない。これは悪い取引だ。2011年の本「タフになる時(Time to Get Tough)」ではアメリカ労働者を保護するために、輸入品に対して20%の関税をかけるべきだと主張している。
トランプは、アメリカは何の見返りもなしに日本や韓国などの競争相手を守ってやっていると言って批判した。日本が攻撃されたとき、アメリカには日本防衛の義務があるが、アメリカが攻撃されても日本は助けにくる必要がない。これがよい取引だと言えるだろうかと、43,000人収容のスタジアムに寿司詰めになった観衆に訴えかけた。
アメリカは日本と韓国に対して多額の貿易負債を抱えているのに守ってやっている。アメリカは何の見返りも受けていないと主張した。
「日本は米国に何百万台もの車を送ってくるが、東京で(米国製の)シボレーをみたことはあるか?」と挑発。中国、日本、メキシコから米国に雇用を取り戻すと訴えた。(産經新聞
トランプは安倍首相をスマートなリーダーだと持ち上げたうえで、お遊びで仕事をしているキャロライン・ケネディでは太刀打ちできないだろうと言った。日本のリーダーたちはタフな交渉人なのだ。
キャロライン・ケネディは娘の友人なので個人的には好きだが、日本のリーダーたちに豪華なもてなしで酔っぱらわされているだけだとの懸念を表明した。トランプが大統領になったら億万長者の投資家カール・アイカーンを中国と日本の貿易交渉の担当者にすると言った。アイカーンは喜んでやるだろうとトランプは言った。
以下、日本関連ではないが核に関する言及の一部。全文はTrump: I Will Absolutely Use A Nuclear Weapon Against ISISを参照のこと。
トランプはプレスとの会合で、最高司令官としてイスラム過激派に対して断固として核兵器を使用すると言及した。彼らは野蛮人だ。オバマのイラクとシリアの失策のせいで多くのキリスト教徒の首がはねられている。
[以下中略]
CNNの軍事アナリストのピーター・マンソーによると、トランプが水爆を使うと天文学的な市民の犠牲が予想される。アル・ラッカだけでも21000人の人口があるが、ほとんどISISとは関係がない。何百万人もの命が失われ、外交と地域の安定を取戻すまでに少なくとも百年はかかるだろう。
トランプによると「市民の犠牲は不幸な戦争の現実」だ。しかし核兵器を使えばアメリカと同盟国に歯向かう人たちに正しいメッセージを送ることになるとトランプは言う。自分は過去と現在の政権と違って、自分はアメリカを守るために正しいことをなすべきだという不屈のモラルを持っているとも主張した。そして、中国やメキシコには負けつつあるが、ISISには負けないと語った。の競争相手を守ってやっていると言って批判した。日本が攻撃されたとき、アメリカには日本防衛の義務があるが、アメリカが攻撃されても日本は助けにくる必要がない。これがよい取引だと言えるだろうかと、43,000人収容のスタジアムに寿司詰めになった観衆に訴えかけた。
アメリカは日本と韓国に対して多額の貿易負債を抱えているのに守ってやっている。アメリカは何の見返りも受けていないと主張した。
「日本は米国に何百万台もの車を送ってくるが、東京で(米国製の)シボレーをみたことはあるか?」と挑発。中国、日本、メキシコから米国に雇用を取り戻すと訴えた。(産經新聞
トランプは安倍首相をスマートなリーダーだと持ち上げたうえで、お遊びで仕事をしているキャロライン・ケネディでは太刀打ちできないだろうと言った。日本のリーダーたちはタフな交渉人なのだ。
キャロライン・ケネディは娘の友人なので個人的には好きだが、日本のリーダーたちに豪華なもてなしで酔っぱらわされているだけだとの懸念を表明した。トランプが大統領になったら億万長者の投資家カール・アイカーンを中国と日本の貿易交渉の担当者にすると言った。アイカーンは喜んでやるだろうとトランプは言った。
以下、日本関連ではないが核に関する言及の一部。全文はTrump: I Will Absolutely Use A Nuclear Weapon Against ISISを参照のこと。
トランプはプレスとの会合で、最高司令官としてイスラム過激派に対して断固として核兵器を使用すると言及した。彼らは野蛮人だ。オバマのイラクとシリアの失策のせいで多くのキリスト教徒の首がはねられている。
[以下中略]
CNNの軍事アナリストのピーター・マンソーによると、トランプが水爆を使うと天文学的な市民の犠牲が予想される。アル・ラッカだけでも21000人の人口があるが、ほとんどISISとは関係がない。何百万人もの命が失われ、外交と地域の安定を取戻すまでに少なくとも百年はかかるだろう。
トランプによると「市民の犠牲は不幸な戦争の現実」だ。しかし核兵器を使えばアメリカと同盟国に歯向かう人たちに正しいメッセージを送ることになるとトランプは言う。自分は過去と現在の政権と違って、自分はアメリカを守るために正しいことをなすべきだという不屈のモラルを持っているとも主張した。そして、中国やメキシコには負けつつあるが、ISISには負けないと語った。

中谷防衛大臣の過大な約束

アメリカ国防省から2つのドキュメントを拾ってきた。一つ目はアメリカ海軍のアジア太平洋地域での取り組みに関するドキュメントだ。国際協力を通じて緊張緩和の努力をすることを表明している。協力国の中には中国も含まれる。つまり、安倍政権支持者が願うような「中国封じ込め」というのは幻想だろう。
この文章を読むと、軍隊の役割が、戦争から情報の共有による紛争の未然防止に軸足を移しつつあることが分かるのだが、戦争に反対する野党ほど意識変革が必要なのではないかと思った。この意味で国会の議論は一回り遅れているのかもしれない。
もう一つは4月に中谷防衛大臣が表明したものだ。この中で中谷大臣は「地球のどこでもアメリカ軍に協力する準備をしている」と言っている。英雄然とした立派なインタビューだ。ただし、日本の現行憲法にはどこにも「日本が世界中で正義の味方として振る舞って良い」などとは書いていないし、日本の自衛とは全く関係がない。
「世界のヒーローになるために憲法改正させてください」くらいのことを言えば国民も説得されたかもしれないが、安倍首相の好戦的な普段の言動と、自民党改憲案のあまりにも復古的な内容のせいで国民の支持は得られなかった。

アメリカのアジア太平洋地域海軍安全保障方針の概要(2015.8.21)

アメリカは外交や国際機関との協同などを通じて、海洋の安全確保に努力する。東シナ海や南シナ海での領土要求に対していかなるポジションも取らないが、中国のスプラトリー諸島の人工島の建設を懸念している。
アメリカは、アメリカと同盟国の利益を守る為にアジア海上でのプレゼンスを維持し、紛争防止の為の能力を強化しつつある。また、その為に最新鋭の能力への投資を行っている。同盟国の海軍力強化にも取り組んでいる。
アメリカは、同盟国やパートナーとの間で、相互運用性(インターオペラビリティ)を構築中だ。中国指導者や地域当局との間でリスク回避手段を作成中である。船舶対船舶の合意はでき上がっており、年末までには航空機同士の遭遇に関する合意ができることを希望している。また、地域安全機関の強化を目指している。この点でASEANの重要性は増している。
http://www.defense.gov/News-Article-View/Article/614488/us-outlines-asia-pacific-maritime-security-strategy

日本との戦略ガイドラインの見直しについて(2015.4.27)

日本の中谷防衛大臣がインタビューに応じて以下のように語った。
日本はアメリカのリバランス政策を歓迎し、日米戦略ガイドラインの見直しにより日米がより緊密に連携できるのを楽しみにしている。この見直しで、日本は世界中でアメリカと連携できるようになるばかりでなく、宇宙やサイバー空間でも協同できるようになる。このガイドラインは地域の紛争抑止と安定に役立つだろう。
この見直しの要点は、日本がこの地域だけでなく世界中でアメリカと協力できるということだ。そればかりか、宇宙やサイバースペースでも協力ができるようになる。
日米は調整メカニズムを作り、平時・有事の連携を強めるつもりだ。米国空軍と航空自衛隊の演習も充実させる。新しい法整備が整えば同盟国との間で兵站のサポートができるようになる。自衛隊は世界の平和維持に貢献することができるようになるだろう。
アメリカと協力するためには、二つの前提条件が揃う必要がある。国連決議などの国際的サポートと国会の承認だ。
新しいガイドドラインには、同盟間の調整メカニズムが必須だ。調整は内閣からコマンドレベルまでのあらゆる連携が必要である。日本を取り巻く安全保障環境は複雑なので、日米は新しい脅威に連携して対処する必要がある。
http://www.defense.gov/News/Article/604528

アメリカ軍日本撤退という噂

北朝鮮と韓国の間に軍事的緊張が高まっている。これについてネットで調べたところ「在韓米軍完全撤退」というブログ記事を複数見つけた。記事によると2015年にアメリカ軍は朝鮮半島から「完全に撤退」するのだという。よく調べると、あるブログの記事が出元になっているようで、その記事を完全コピーしたものが出回っていることが分かった。ネトウヨさんの間では広く出回っている情報のようで「韓国完全崩壊」とか「在日韓国人を送り返せ」などという主張と一緒に語られることが多いようだ。
新聞社や通信社が書いた記事はないので、これは「ガセ」なのだろうと思った。ところが、一概に「ガセ」とも言い切れない記事も混じっている。日高義樹という人が「2016年、米軍撤退でアジアの大混乱が始まる – 日高義樹のワシントン情報」で、アメリカ軍は東アジアから撤退するのだ、と主張している。
現在の集団的自衛権の議論は「世界で一番強い軍隊と手を組んでいるのだから負けるはずはない」という見込みのもとに成り立っている。この見込みのもとに「日本は自前の防衛戦略を持たなくても大丈夫だ」という結論が得られる。賛成派ほどこの傾向は強いだろう。この見込みが裏切られたときの衝撃は強いのではないかと思う。場合によっては不安に駆られた国民の反感が自民党に向かうこともあるだろう。
いくつかの情報を読み合わせると、アメリカ軍は自軍の兵力に被害が出る陸上線を行わず、離れたところからテレビゲームのように空爆をする作戦に切り替えている可能性が高いようだ。ところが、日本人はこれまでの安倍首相の説明から、日本の自衛隊は安全な場所におり、アメリカが前線で戦ってくれるように思っている。これは錯覚にすぎないことになる。
こうした観測は「現場の関係者に取材したところ」と、情報源を秘匿した形で語られることが多い。最近、アメリカ政府は政府予算の削減を進めている。予算が削られることを怖れた軍関係者や国防省の官僚が、こうした噂を広めて、不安を煽っている可能性は否めない。本を売りたい人たちも扇情的な「情報」をありがたがるだろう。
だが、一方で政府自民党の関係者も「ジャパン・ハンドラー」と呼ばれる人たちの情報源に頼って政策を立案している。彼らは提言を売り込んでくるので、日本政府は積極的に情報を取りに行く必要はない。ところが、ジャパン・ハンドラーは共和党よりに偏っていて、必ずしもアメリカ全体を代表しているのではない。彼らは当然のように「アメリカは日本を見捨てないから大丈夫だ」と言うだろうが、その言葉には何の保証もない。
こうした情報発信者たちは、何らかの期待があって日本に情報を流している。国防費予算の削減を怖れて情報を流している人もいるだろうし、兵器産業の為に情報を流している人たちもいるだろう。「長いつきあいだから」といって「腹を割ってくれる」ことはまずあり得ない。その裏には「日本に興味がない」人たちがいる。実際にはそうした人たちの意見がアメリカの意思決定に大きな影響を与えている可能性もある。
日本の野党はさらに情報の末端にいる。アメリカまで情報を取りに行く意欲はなく、国内の憲法学者の意見を参考にして、国内的な議論に終始している。いわゆる「神学論争」だ。神学論争は二極化したまま、膠着している。
もし、野党の議員が本当の意味で愛国心を持っているならば、日本政府が持っている情報に疑いを持ち、自前の情報ルートを通じて、日本が持っている情報を検証すべきだろうが、彼らのその意思があるかどうかは分からない。

戦争法案か安全法制か

安保法制の議論が下火になって来た。ほぼ議論のポイントが出尽くして二極化が完了したからだろう。壊れたテープレコーダーのような論説が繰り返され、目新しいニュースがなくなれば、マスコミの注目度は下がる。
論争の中心には、これが戦争法案なのか、平和安全法制なのかという問題がある。
いわゆる「現実派」と呼ばれる人たちは、憲法9条を「単なる信仰だ」と批判し、日米軍事同盟こそが安全を保証すると主張する。いわゆる抑止力論だ。いっけん正しそうだが、同盟強化が抑止力になるというのは、確立したセオリーではないらしい。ヨーロッパでは幾度も同盟関係が作られたが、対立をエスカレートさせただけで戦争の抑止には役に立たなかった。ヨーロッパで戦争がなくなったのは徐々に国境をなくして域内の交易が緊密になったからだ。
ひんぱんに情報をやり取りしているネットワークに所属している点Aに打撃を与えるためには、その点をネットワークから排除してしまえばいい。確かにその通りなのだが、排除された点Aは、別の排除された点と結びつき、独自のネットワークを作るかもしれない。ネットワークが完全に切り離されてしまうと、監視は不可能になる。すると抑止力は0になる。
一方、点Aをネットワークに封じ込めた場合、点Aがネットワーク全体を撹乱するような動きに出るチャンスは減るだろう。なぜならば点Aは自らネットワークから得れるはずの便益が失われてしまうからである。ネットワークに依存すればするほど裏切った時の損害が大きくなる。これがネットワークの持つ抑止力だ。
ここから得られる洞察は簡単だ。つまり、同盟を作って囲い込むよりも、ネットワーク内に封じ込めておく方が安全であり、かつ得られる利益は最大になる。また、ネットワークの中央にいた方が安全だという洞察も得られるだろう。中心を攻撃するとネットワーク全体が混乱する可能性が高まるからだ。
軍事同盟は、当座の抑止力はあっても、より大規模な衝突を引き起こす可能性が高い。そもそも、戦争の懸念があるから軍事同盟を組むのだ。アメリカの同盟国が戦争から守られているのは、これがたまたま経済ネットワークの中心の形成しているからに過ぎない。安倍首相はこの点を正直に話し、法案を「戦争準備法案」とでも説明すべきだろう。
それでもこれは「平和安全法案」なのだと言い張るならば、中国との軍事協力の可能性を考えるべきだが、安倍首相の支持者たちがこれを許容するとは思えない。彼らの願望は「中国を囲い込み、できれば殲滅させる」ことだ。多分、可能性を示唆しただけで「売国奴」とか「反日」のレッテルを貼られるだろう。
このネットワーク抑止論には「穴」もある。ネットワークを破壊することなく争奪戦争を行えばよいからだ。このため21世紀の戦争は、アフリカや中東などネットワークの末端で行われることが多い。末端は消費市場が発展していない資源輸出国だ。こうした戦争は外部からの支援を得て行われるので、どちらも消耗せず紛争が長期化しやすい傾向がある。

通貨戦争とブロック経済

1929年の金融恐慌をきっかけに、各国は深刻な経済不況に見舞われた。第一次世界大戦後の経済好況で生じたアメリカの生産過剰が急激に調整されたものと考えられている。
1929年にアメリカはホーリー・スムート法を成立させ、国外からの製品に高い関税をかけるようになった。ヨーロッパの国々も報復し域外からの輸入品に高い関税を課した。こうしてでき上がった経済圏を経済ブロックと呼ぶ。主な経済ブロックは、アメリカドル圏、フランスフラン圏、イギリスポンド圏だった。ソ連は資本主義経済を離脱しており、大きな影響を受けなかった。
1931年にはイギリスは金本位制を離脱し、それまで割高だったスターリングポンドの価値を切り下げた。通貨の価値が下がると、それだけ自国製品を輸出しやすくなり、国内市場でも自国製品が有利になる。イギリスが通貨を下げるとアメリカやフランスもこれに追随した。その結果起きたのが通貨安競争だ。通貨安競争はやがて近隣窮乏化策と呼ばれるようになった。結果的に域内の失業が輸出されたからだ。
結果、世界の貿易額は4年で1/3に縮小した。経済圏から閉め出された国の経済は困窮した。これが海外進出につながった。出遅れていた日本、ドイツ、イタリアは「世界秩序への挑戦者」となり、そのまま第二次世界大戦に突入した。
連合国は通貨安競争が世界大戦を誘発した経験から、1944年にIMFを設立しドルを基軸に通貨価値を安定させることを決めた。また、自由貿易を促進するために1947年にGATT(関税および貿易に関する一般協定)と呼ばれる枠組みが作られた。GATTは1995年にWTO(世界貿易機関)に引き継がれた。
高い関税が世界貿易を縮小させたのは間違いがないが、通貨安競争が近隣窮乏化だったのかについては議論がある。1930年代の経験から、世界経済に悪影響をもたらしたものと信じられている。
通貨安競争もブロック経済化もその当時は自衛の手段だったと考えられる。ところが、いったん自己防衛メカニズムが働くと、全体の経済規模は縮小をはじめた。部分的な調整が始まると、全体としての利得は著しく減る。すると、それぞれの国々がいくら努力しても、本来得られるはずだった利得は得られなくなってしまう。
2008年のリーマンショック以降、通貨安競争が再燃した。まずはアメリカが金融緩和を行いドル安を誘導した。アメリカのドルは近隣諸国に流れ込み新興国の通貨が値上がりしたので、G20諸国はアメリカを非難した。最近では中国が元を切り下げ、アメリカにはこれを非難する人がいる。
TPPは域内から見れば自由貿易に資する取り組みなのだが、域外から見ればブロック経済圏だと見なすこともできる。つまり、自由貿易の確保と域外の囲い込みは表裏一体の関係にある。
同じ事が、現在の安保法制案にも言える。確かに、日米の軍事同盟は域内の平和と安全保障を目指す取り組みなのだが、これは域外の国への囲い込みを通じて戦争を誘発する危険性を持っている。その意味では、安全法制という呼称も戦争法案というラベルも実は同じコインの裏表のようなもので、どちらが間違いとは言えない。
通貨安競争、他国を排除する経済圏の設立、そして軍事同盟の強化など、現在の状況が1930年代に似ていると考える人も多い。

アフリカ大戦

1994年のルワンダの大虐殺は隣の国コンゴ民主共和国(旧ザイール)に飛び火した。戦争は15年以上続き500万人以上が死亡したとされるが、詳しい人数はよく分かっていない。戦争は周辺諸国を巻き込んで泥沼化した。戦争に参加した軍隊は正規軍だけではなく、各地の武装組織も含まれる。周辺8カ国を巻き込んだこの戦争は、アフリカ大戦とも呼ばれる。
武装集団は各地のレアメタル鉱山を占拠し、地元の労働者が一日18セント以下で働かされていた。レアメタルはノートパソコンなどのハイテク機器を作るのに使われるので、先進国はレアメタルを買うことによって、戦争に間接的に加担していたことになる。(wired)一方、マスコミはほとんどこの戦争に関心を寄せなかった。
西洋諸国の関与はよく分からない。コンゴ(旧ザイール)はフランス語圏なのだが、イギリスとアメリカがルワンダ、ウガンダを支援をする形で英語圏を拡張させようとしているのだという憶測がある。一方、アメリカのアフリカに対する関心は低下しているのだという人もいる。
戦争の原因は国内政治の混乱だ。1960年代にベルギーから独立して以降、モブツ大統領が30年以上も独裁政治を行っていた。大統領は西側諸国からの援助を独占したため、産業が発展せず闇経済が横行した。国として民主的に国内利害を調整した経験はなく、政権交代が選挙ではなく、ローラン・カビラの反乱という形で実現した。カビラを応援するルワンダやウガンダの介入を招き、周辺国を巻き込んだ戦争に発展した。
コンゴの戦争を見ると、民主主義による政権交代は戦争の代替手段なのだということが良くわかる。例えば、アメリカでは大統領を選ぶのに1年以上かけるのだが、実は4年に一度の戦争をしているのと同じことなのだ。アメリカの戦争は儀式化が進み、今では選挙ディベートはエンターティンメントの一種として理解されている。
もう一つの原因は資源の豊富さである。コンゴは鉱物資源に恵まれているのだが、これを独占したいという欲求が生じる。日本のように資源のない国では、国民を教育して国際競争力を高める必要がある。結果として民主主義が発展し、政情は安定する。ところが資源国では単純労働で巨額の富が得られるので、武力を背景にした収奪が横行するのである。
何回か停戦の為の話し合いが持たれたが、試みは失敗に終った。その後、東コンゴの鉱物資源を買わない動きが広がり事態は沈静化の方向に向かっている。(ナショナル・ジオグラフィック)コンゴの西側では政情が安定に向かっているが、東コンゴは未だに不安定な状況が続いているようだ。
アフリカは1960年代に独立の動きが広がった。その後東西冷戦を背景にして親欧米国と親ソ中国に別れた。冷戦崩壊後も欧米を牽制するために中国との関係を保っている国が多い。中国は自国の労働者を持ち込み資源を持ち帰ってしまうので、新植民地主義だと非難する人もいる。その一方で、中国はインフラなどの投資を積極的に進めており政府レベルには歓迎されているという観測もある。(朝日新聞
日本の安倍首相は「中国植民地主義説」に立っているようだ。G7の席上で「中国の援助はアフリカ腐敗の温床」という主張をした。(産經新聞)アフリカの紛争には興味のなかった日本政府だが、中国への対抗上アフリカに目を向け始めたようだ。歴史を見るとアフリカの混乱はヨーロッパの植民地主義や独裁者の援助などが原因になっている。他のG7参加国の首脳がどのような気持ちで安倍首相の主張を聞いていたのかはよく分からない。

教育 – 戦争を防ぐ力

戦争を防ぎ、平和を保つためにはどうするべきなのかという議論がある。70年間戦争を経験していない日本人は概念的に「軍隊を捨てて平和を希求すべきだ」とか「軍事力を増して抑止力を高めるべきだ」という二項対立に陥りがちである。
ところが、世界の紛争を見ると別の抑止力が見えてくる。それが「教育」の力だ。
1994年、東アフリカのルワンダでツチと呼ばれる人たちが80万人殺された。たった、100日間の出来事だった。
もともと、ルワンダにはフツとツチと呼ばれる社会集団があった。両者は同一言語を話す1つの民族だったが、ベルギーの植民地支配下で「異なる民族」として分離された。農耕民族のフチは人口の8割を占めるが被支配者層とされ、牧畜系のツチが支配するという図式ができあがる。ベルギー人は税や教育などで徹底的にツチを優遇した。
ベルギーから独立した後、ルワンダの政権を握ったのは多数派のフツだった。報復を怖れた多くのツチは海外に逃れていたのだが、祖国への帰還を目指して内戦を起こした。
内戦は政府軍と反政府軍の戦いだったが、虐殺を引き起こしたのはフツ至上主義に煽動された一般市民だった。識字率が50%程度だったルワンダで煽動に大きな役割を果たしたのはラジオだった。「ツチが報復に来るから先制攻撃しなければならない」というメッセージは情報リテラシーの低い国民にすんなりと受け入れられた。虐殺に反対したフツもいたが「裏切り者」だと見なされ、真っ先に殺された。つまり「虐殺に参加するか、自分が殺されるか」という空気が作られたのである。
この虐殺に際して、多くのツチ女性が強姦された。中には強姦相手の子供を産んで現在でも育てている女性がいる。HIVに感染した女性も多かった。
国連からは2500人程度の部隊が送り込まれていたが、この虐殺に対して積極的な介入ができなかった。大量虐殺(ジェノサイド)が起こるまでは、政治に介入してはいけないと支持されていたからだ。国際社会は資源もない小国のもめ事に巻き込まれるのを怖れており、同時期にボスニアで発生している紛争の解決を優先させたかった。そこで、この出来事をジェノサイドだと認めなかった。
国連がジェノサイドが行われていたかもしれないと認めたのは50万人が殺された後だった。しかし、認定後もアメリカは協力を渋り、積極的な展開ができなかった。アメリカ政府は事態が沈静化するまで「ジェノサイド」という言葉の使用をかたくなに拒んだ。
内戦終結後に成立した新しい政府はフツとツチという「民族区分」を禁止して表立った対立はおさまり、年に8%ほどの経済成長を達成した。マスコミが民族対立を煽った反省から、中立公正な報道を心がけるマスコミもうまれた。
しかし、この紛争は西隣にあるコンゴ民主共和国(旧ザンビア)に飛び火した。資源争奪を巡る争いに発展し、周辺諸国を巻き込んで泥沼の戦争が起きた。戦争の余波で500万人以上の市民が飢えで死んだり、虐殺されたりした。
この事件から分かることはたくさんある。人間は極限の状態に置かれると限りなく残虐になれる。民族は自明の概念ではなく、ときには人工的に作られる。一定の条件が整えば民主主義は狂気を生み出す。西洋が関心を寄せる「世界」はごく一部に過ぎず、その枠外にある地域の紛争は忘れられてしまう傾向にある。
こうした惨事を防ぐにはどうすればよいのかということを一概に言う事はできないが、ルワンダの国民が適切な教育を受けており、自前で情報を取得できれば、ラジオのメッセージを真に受けて80万人もの市民を虐殺することはなかったのではないかと思われる。

超訳 – 安倍70年談話

昔は西洋諸国はどこも植民地経営をやってました。みんながやっているのだから日本もやって当たり前。アジアやアフリカの諸国もロシアを負かした日本に拍手喝采したじゃないですか。
でも、西洋が経済をブロック化して日本を追いつめたんですよね。国際秩序の挑戦者になってしまいました。
確かに満州事変を起して国際連盟から脱退したのはまずかったですね。いろいろあって、結局日本は負けちゃいました。国内外で若者や女性を含むたくさんの犠牲者が出たんですよね。亡くなった人たちを思うと心が痛みますね。
戦争はダメです。事変・侵略・戦争、全部ダメ。植民地支配もいけませんね。(日本がやったことが侵略かどうかは分かりませんよ。後々歴史学者とかが考えるんじゃないっすかね……)日本は繰り返し反省とかお詫びとか言ってきてますよね。今後の内閣もそういう立場を取るでしょう。元捕虜や中国のみなさんは寛容でした。心の葛藤もあったことでしょうね。みなさんのおかげで日本は国際社会に復帰できました。
でも、今の日本人の8割は戦争とは関係ありません。子や孫の世代もです。これ以上謝罪させるのはどうかと思います。まあ、何があったか謙虚に覚えておくべきだとは思いますけどね。
これから外交で物事を解決します。核兵器の廃絶も目指します。女性の人権も守ります。(まあ、女性が家庭におさまってくれればの話ですがね。)
特定の国が利権を牛耳るような経済ブロックはダメですね。(とはいえ、アメリカ主導で経済圏を作るTPPには参加するんですけどね。)開かれた自由貿易の世界を作り、発展途上国を引っ張ってゆきます。自由・民主主義・人権という基本的価値を堅持します。(ただし、国内では公益の方が人権に優先するようにしたいと思ってますけど)そうでない国を封じ込めたりやっつけるために(集団的自衛権も使って)「積極的に介入」します。