SMAPの騒動を見ていると、日本人がどれだけコンテクストというものを大事にする国民かということが分かる。限定的な情報をもとにさまざまな解釈が行われている。話の中心は事実そのものではなく、情報をどのように解釈するかという話である。端的に言えば「誰が悪者なのか」という話になっている。
当初の発表では木村拓哉がハワイでバカンスを楽しんでいるときに、香取慎吾と草彅剛がクーデターを企てたというようなことになっていた。稲垣吾郎が同調し、中居正広が止められなかったという図式である。それをジャニー喜多川氏が説得したが聞き入れられなかったという。
ここに、謎のフィクサー小杉金屏風氏が登場する。そういう名前の人かと思ったのだが、本名は小杉理宇造氏というらしい。中森明菜を騙して近藤真彦との破局会見に引きずり出して、その後自殺騒動に追いやった犯人として知られているようで、Wikipediaには悪党と書いてある。その人が「4人は事務所と木村拓哉に謝るべきだ」という記事を書いて、ファンの反発を買っていたそうだ。
ファンは「4人を悪者に仕立てようとしている」と反発した。だが、部外者から見ると「仲が悪かったんだから解散すればいいじゃないか」程度の話だが、中では「誰が悪いのか」という話になってしまっていた。
このニュースが広まった時「香取慎吾は悪くない」という声が出てきてびっくりした。グループの解散は別に犯罪ではないのになぜ口火を切ったら「悪い」ことになるのかよく分からなかったのだ。
ところが話はここで終わらなかった。木村拓哉は実はメリー喜多川氏らとハワイで極秘会談を行い「SMAPの今後について話し合っている」という<情報>が寄せられた。工藤静香も参加したという。それに反発した残りのメンバーが叛乱を起こしたというのだ。なんとなくありそうな話ではある。すると「木村拓哉が悪い」ということになる。
しかし、これも本当の話なのかがよく分からなくなった。そもそも当日にはジャニー喜多川氏は代々木でA.B.C.-Zのコンサートを見ていたという説が出ていた。Twitter上では「ジャニーさん代々木」というワードで検索ができるのだが。複数人が見たとか、ジャニーさんはテレポーテーションができるのかという話になっている。
さらに「ジャニーさんの説得」の前には事務準備が進んでおり、8月の初旬には準備ができていたという話まで飛び出した。案内状ができており、役員会での決済もスムーズだったという話である。これを裏付けるような(しかし。確たる証拠はない)話がいくつも飛び出している。見つけたのは「私が旧姓を変えたが5日前だが、案内は旧姓で届いた」というものだった。
この説を支持する人たちが信じたいストーリーは「SMAPのメンバーは解散など望んでいなかったのに、事務所(ジャニーさんではなく、メリー喜多川氏を中心とする人たち)が勝手に解散話を進めた」というものだ。SMAPがなくなれば、番組は継続できず、過去のCDも売りにくくなるわけだからありそうにない話なのだが、まあネットではそういう話もある。裏切ったのはSMAPではなく事務所ということにしたいのではないかと思える。
芸能事務所が作るストーリーはたいていは嘘である。しかし、たいていの嘘は「信じやすく加工された」物語だ。急激な変化は受け入れにくいので、解禁日などを決めてストーリーを小出しにするのが一般的だろう。だが、今回の話は「ファン」対「事務所」という構図になりつつある。「私たちの大切なものをぶちこわしにしたジャニーズ事務所」という形式である。これだけを見ても、今回のジャニーズ事務所は物語作りに失敗したのは間違いがない。
この一連の話で気になるのは「香取君のファン」とか「中居君が尊敬できる」という話はあるのに、木村拓哉への応援が全く見られない点だ。SMAPに一番依存していたのは木村拓哉なのかもしれないと思った。ファンだったとしても「木村拓哉を応援する」とは言いにくい雰囲気になっているのではないかと思えるし、そもそも固定的なファンはCMに起用している各社が思うほど多くなかったのかもしれない。