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2+2延期報道 アメリカ合衆国がGDP比3.5%を要求か


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フィナンシャル・タイムズが伝えたため一時ちょっとした騒ぎになった。日本側には常に応分の負担を求められる日が来るのではないかと言う怯えがあり「ついに来るべきものが来たか」と考える人も多かったのではないか。

断片的ながら周辺情報を整理する。

日本のメディアは手も足も出ず

REUTERSも含めて日本語の報道はフィナンシャル・タイムズの報道を伝えるだけで分析は加えていない。特に日本のメディアは記者クラブ報道依存の甘えがあり政局報道を除いて独自取材能力を失っている。

実はフィナンシャル・タイムズの記事はかなり激しい内容。

日本側が突然の通告に怒りをつのらせて協議をスクラップにしたと言っている。日本の報道を見てもこのあたりの激昂ぶりには触れていない。実は表現をかなりやわらげている。

Japan has cancelled a top-level meeting with the US after the Trump administration abruptly told Tokyo to spend more on defence, sparking anger in Washington’s closest Asian ally.

Japan scraps US meeting after Washington demands more defence spending(Financial Times)

日本のメディアは様々な意味で「国民の知る権利」の期待に応えられていない。

背景にあるトランプ大統領の焦り

トランプ大統領は連日不規則な発言を繰り返している。Axiosが独自でG7の最中にエルドアン大統領がイラン側に渡りをつけたとトランプ大統領に伝えたものの、ハメネイ師の消息がわからなくなっていたために最終承認が得られなかったと書いている。

その後、トランプ大統領はノーベル平和賞について錯乱したSNS発信を行っている。コンゴ民主共和国とルワンダの和平協定について仄めかしているのだが、実際にはすでにルビオ国務長官のもとで「手打ち」が終わっていた。ただしトランプ大統領にとってすべての手柄は自分のものでなければならずルビオ国務長官だけが前に出ることは許されない。だからホワイトハウスで改めてセレモニーをやると言っているとのことだ。

トランプ大統領はノーベル平和賞を渇望しておりイランとの間の和平交渉が進まないことに苛立ちをつのらせているようだ。イランは直接アメリカと(つまり自分と)話したがっていると主張しているがイラン側はそうは考えていない。このあたりの周辺状況については別エントリーでまとめる。

成果がないことに激昂するトランプ大統領をなだめるために部下たちが「急いで成果を得ようとした」可能性は否定できない。

ヘグセス国防長官は機密情報に対するアクセスを家族に許したりするかなりいい加減な人物であり「3%も3.5%も同じだろう」と考えたとしてもさほど不思議ではない。

ヨーロッパはおそらく別の文脈で問題を捉えている

フィナンシャル・タイムズは今回の記事の中でNATO首脳会談についても書いている。

この会談で何が話し合われるかについてはよくわかっておらず、トランプ大統領は欠席も仄めかしている。ヨーロッパの文脈で捉えるならば「アメリカ合衆国には戦略的一貫性がなく同盟国を蔑ろにする傾向がある」ということになる。今回のリークが英語メディアで出た背景には日本ではない国に対するメッセージが含まれている可能性も否定できない。

ただしこのあたりについて書こうとすると当然ヨーロッパやアメリカ合衆国に取材をしなければならない。日本のメディアにはそのような余力はなく従って「フィナンシャル・タイムズがこう言っています」以上のことは書けないのである。

首脳会合欠席はトランプ大統領の記者たちへの発言やSNSでの情報発信から出た観測。これが同盟国軽視ではないかとされたことでホワイトハウス広報が「明確に否定」する声明を出している。

NATO首脳会談でこれまで通りインド太平洋戦略が話し合われるのかにも注目が集まる。NHKによれば今回の会合は防衛費について集中的に話し合われる予定でインド太平洋戦略について個別会合は行われない見込みである。

ヨーロッパはトランプ大統領が土壇場(トランプ大統領に言わせれば最後の1秒)で何を言い出すのかを恐れており、様々な周辺情報から動向を探ろうとしているということになる。

今の日本の議会はこの問題に対処できないだろう

東西冷戦が終結して以来、日本はアメリカから見捨てられるのではないかと言う不安に苛まれてきた。こうした不安はアメリカとの太いパイプを権力的な背景に持つ自民党にとっては極めて不利に働くだろう。

このため日本政府は一貫して日米同盟に関するアメリカ側の働きかけを「外交と安全保障についてはお答えできない」と拒否してきた。

これは日本国民の知る権利を阻害していると考えることもできるができるだけ現状を変えたくない日本人に「考えない自由」を与えてきたのも確かである。

トランプ政権は当座の政治的目標(この場合はトランプ大統領にノーベル平和賞を取らせる)に向かっ不規則に動く政権である。中長期的な目標を掲げてアクションを沿わせてゆくことを「戦略」と捉えその戦略目標に向かって実効性のある打ち手を出すことを「戦術」と捉えるとトランプ政権は戦略なき政権ということになる。

トランプ政権は短期的ディール・ベースの政権だと考えることもできるだろう。

戦略がないので途中で何をしていいかわからなくなると「意思決定は最後の1秒で行う」と開き直ってしまう。こんな「同盟国」に依存し続けるのはもはやリスクでしかない。とはいえすぐに切断するわけにも行かないのだからそれなりの戦略的対応が必要になるだろう。

長年アメリカとのやり取りを押し入れに隠してきた自民党は変化に対応できないためこの問題を解決することはできないだろう。石破茂総理大臣に至ってはNATO首脳会談でトランプ大統領と関税の話をしたいと期待をにじませているようだが、そもそも課題が山積みでありそんなことはできるはずもない。

とはいえ、長年議論をしてこなかったツケは大きい。

おそらく政権交代が実現したとしても各政党とも自民党を越えるような提案はできないのではないかと考えられる。眼の前の選挙で頭がいっぱいになっておりとても国家の安全保障戦略について考える余裕はなさそうだ。