イランへの軍事介入はもともとネタニヤフ首相の政治宣伝に踊らされているところがある。トランプ政権は十分な印象操作ができておらず支持者たちの混乱を招いている。
では十分な印象操作ができている移民追放問題はうまく行っているのだろうか。
実はこちらも大混乱している。
このところICEを巡る報道が錯綜している。農場などに対する強制捜査を中止したとする報道が出たが、そのあとに「いや続行している」という報道が出た。さらに今度は「民主党地域で重点的に作戦を実行する」という報道が出ている。
実際に何が起きているのか。
農務長官が「このままではアメリカ合衆国の農業が深刻な打撃を受ける」と大統領に直訴したようだ。要するに選挙に影響が出るということだ。ここでトランプ大統領は慌てて方針を転換する。ところがこの方針転換は2つの圧力を受けている。
1つはMAGAの反発だ。MAGAの人々はアメリカを取り戻す戦いが産業界に潰されることを恐れていて「ここで手を緩めるべきではない」と主張している。支持者に対して弱みを見せられないトランプ大統領はどうしていいかわからなくなってしまったようだ。
次に国境皇帝ことトム・ホーマン長官も作戦は継続中だと主張し続けている。作戦が頓挫したと見られることを嫌っているようだ。Axiosによると予算の使いすぎが問題になっているが実現不可能な目標が達成できないことに焦りを募らせるエージェントたちも「クビになるのではないか」というストレスが掛かっているようである。中止の報道が出た後もルイジアナで84人を逮捕したなどと宣伝している。
アメリカ合衆国では民主党支持者の間に「不法移民などいない」と主張する人達がいる。彼らはアンドキュメンテッド(文書化されていないだけ)で入国審査書類はあるのだから「文書もある」などという人もいる。
実際にはラベルが問題なのではない。
正式な人権が確保されていないがゆえに労働環境向上を訴えることがなかった労働者が便利に使われている点が問題なのだろう。それに「不法移民」とか「文書化されていない」という名前をつけても理解は進まない。さらにトランプ大統領は「彼らは犯罪者集団である」というラベル貼りを行っているため実際に起きていることを見て「こんなはずではなかった」ということになっている。
不毛なラベル貼りのうらでアメリカの産業にはダメージが出はじめている。いつ襲われて家族と離散させられるのかわからないと噂に怯える人たちが増えていて仕事場にやってこない。このため農業、飲食業、老人介護など様々な現場に影響が出始めているそうだ。
アメリカの普通の人々が没落しているのは確かだ。しかしこれは主に高度な知的労働に携わる人達だけが高い給与を得ていたと言う問題。たまたま外国出身者が多かった。ところがトランプ候補は中南米系の低賃金労働者たちが中間所得層の仕事を奪っていると構図の塗替えを行ってしまったため状況が混乱した。
普通に考えればすぐに破綻する事はわかりきっている。だが、個人的には「さすがにお国がやっていることなのだから何らかの知恵はあるのだろう」と考えていた。
しかし実際に起きている混乱を見るとそんなものはなかった事がわかる。
トランプ大統領の政権幹部は問題の調整はせずに日々問題を作り出している。外交ではすでに大混乱していて「まかり間違えば核戦争」という状況にが生まれている。今これを慌ててフォローしているのはイギリス、ドイツ、フランスの外務大臣たちだ。
ところが内政にはこうした実務家が一切いないため自分たちでなんとかする必要がある。外国からの製品流入も阻止したいのだから具体的には誰かが「アメリカ人がいちご畑に入りいちごを摘み、ネジづくりのような作業を低賃金で行うべきだ」と説得しなければならない。