8,900人と考え議論する、変化する国際情勢とあいも変わらずの日本の行方

集団を組む性質のあるヒトはそのままの状態では闘争を繰り返し高度な文明を築くことが出来ない。この本能を突破した文明だけが農業などの精緻化を通じて食料供給を安定させ、工業やサービス業を発達させることができる。

つまり政治は本能を抑え集団を高度化させる試みなのだと定義することもできる。

しかし狂った社会ではその政治こそが集団を巻き込み破綻に向かうことがある。イスラエルでは今そうした動きが起きており世界各国はそれを止めることができていない。それどころかむしろ破綻に向けて大きく前進しているのが実情だ。

これが狂った世界の狂った戦争である。この世界では狂気こそが正常なのだ。

テレビは連日、イスラエルとイランの間の交戦は激化していると伝えている。報道記者が断続的にシェルターの中に入り外に出てみると建物が壊され血まみれの人々が恐怖を訴えている。

一体今何が起きているのか。ひとまず現況をまとめる。

イラン側の死者は400名を超えたところ。イスラエルでも死者がでており最新の統計では14人が亡くなっているそうだ。

これらについてQuoraのコメント欄でやり取りをしていてあることに気がついた。どうやらもともと何があったのかを知らない人もでてきているようだ。

ネタニヤフ首相には汚職疑惑があり今も裁判が続いている。一度政権を失ったが極右と組んで再び政権を取り戻した。ネタニヤフ首相は司法潰しのために「司法制度改革」を打ち出す代わりに「約束の地からパレスチナ人を追い出す」という極右の野望に応え続けていた。この他に特別扱いを要求する超正統派と呼ばれる人たちからの支持も得ている。政府からの給付をもらい聖書研究に没頭するが兵役を含む労働を避け続けている。

10月7日にハマスがイスラエルに攻撃を仕掛けたことで裁判への出廷延期が認められるのだが、2024年12月時点では週に3回裁判所に通うことになっていた。その後もネタニヤフ首相は総選挙を拒み続けていたが超正統派の徴兵問題で閣内がまとまらず2025年6月11日の時点でかろうじて解散を否決している。

ガザの戦争はイスラエル優位に進んでいるようにみえるのだが、実は「イスラエル軍兵士が犠牲になっているのに超正統派だけが戦争にいかなくても済むのは納得ができない」という人が増えているようだ。

ただし今総選挙を行えばネタニヤフ首相は敗北する可能性が高い。汚職裁判を延期する理由がなくなるため政治生命が絶たれる可能性が極めて高いのだ。

だが、最近になってこの状況を知るようになった人はそもそも今回の一連の騒ぎの動機(の少なくとも一部)がネタニヤフ首相の政治的延命にあるとは知らないようである。

この背景情報を知るとネタニヤフ首相がトランプ大統領の誕生日を祝うメッセージの中で「自分とトランプ大統領は悪の帝国イランを打倒するための戦いを繰り広げている」と主張しヨーロッパとアラブ圏の協力を要請したことの狂気性が一層際立ってくる。

イスラエル首相府がなぜこの写真をサムネイルに選んだのかはよくわからないがその表情にはなにか狂気じみたものが宿っているようにもみえる。

ネタニヤフ首相の政治的延命のためには戦争を極限までエスカレートさせるしかない。最終到達地点はおそらく核戦争ということになる。ところがイスラエルの政治はこの狂気を防ぐことは出来ていない。むしろ「民間人の犠牲は出たがこれは仕方がないことだった」などという声明も出されている。

民間人の犠牲者が増えれば反ネタニヤフ運動も盛り上がる。するとますますネタニヤフ首相は選挙を行えなくなりイランを攻撃しアメリカを戦争の泥沼に巻き込もうとするだろう。イランが完全に破壊されれば問題は解決するのだが、トランプ政権の支持者の中には戦争への関与のエスカレートを好まない「孤立主義者」も含まれているため、その関与は中途半端なものになることが予想される。

つまり結果的にイランは「和平合意は自分たちを守ってくれないのだから核武装するしかない」と考える人達が出てくる。そしてこれはロシアにとっては非常に好都合だ。

西側の弾薬供給は限られており、イスラエルとウクライナの間でミサイル防衛システムの取り合いが起きていることは事実のようだが何が起きているのかを報道から追うのは難しい状況である。

Zelensky calls for aid to Ukraine not to decrease in wake of Israel-Iran war(The Times of Israel)

冒頭に述べたように「闘争回避」によって文明を高度化させるのが政治の役割だと定義するとネタニヤフ首相のおそらく個人的な動機に基づく政治行動は狂気以外のなにものでもないのだが、実際にはこのネタニヤフ首相が状況を作り出しており「彼こそが正しい」という状況が生まれつつある。

狂った世界の狂った戦争では狂っている人こそが「正しい人」になるのである。

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