9,000人と考え議論する、変化する国際情勢とあいも変わらずの日本の行方

小泉進次郎農水大臣が連日メディアに出演し店頭小売価格2000円備蓄米の流通を確約した。当ブログでは国がAmazonのような仕組みを作ればいいのではないかと書いてきたが楽天が参入するようである。小泉進次郎農水大臣は「やっぱり日本は凄いなと思うのは、今は本当に緊急事態だと。こういった時は利益を追求するのではなくてとにかくコメを世の中に出すことに協力できるのではないかという問い合わせをいただく方が多い」と「力説」しているそうだ。非常にうまいやり方である。

当ブログは政府がAmazonのような効率的な流通の仕組みを作ればいいのではないかと書いてきた。この予想は当たりつつある。一方で小泉進次郎農水大臣に大臣になってもコメの値段は下がらないのではないかと言う予測は外れる可能性が高まった。予想の前提条件は「これまでの流通の仕組みと旧来のコメの味にこだわる消費者のもとでは商業慣行はあまり変わらないのではないか」だったからだ。

忙しい家庭はそもそも重い5Kgのコメを買い出しに行けないかもしれない。仮に楽天が思い切った送料を設定すれば備蓄米は中間卸だけでなく一般小売業を飛ばして即座に流通することになるだろう。重いコメを自宅に運んでもらえるからである。節約志向の高まりとともに自炊したい人は多いはずだが今までの流通はこの期待に十分に応えてこなかった。今回「コメ」をきっかけにした自炊支援ビジネスが定着すれば大きなビジネスチャンスになる。

今回の打ち出しで非常に上手だと感じた点が3点ある。

まず小泉進次郎大臣は「日本人の美点」に着目している。日本人は細かい議論は苦手だが日本人はスゴいですね空気に弱い。失われた30年という自己認識を通じて「日本人は駄目だ駄目だ」と言われているのだから「日本スゴイですね」というメッセージングは甘露のように日本人の心に染み渡るだろう。特に自民党疲れを起こしていた保守には大きく響くはずだ。

さらに小泉進次郎大臣は農政トライアングル(農水族・農協・農林水産省)批判を否定しなかった。羽鳥慎一モーニングショーでの玉川徹氏との対話が顕著だ。玉川氏はかねてより「大規模集約化」を訴えていた。しかしこの提案は小規模農家を守りたい識者たちから激しく反発されている。農林水産省批判を繰り広げる人たちも大規模集約化には賛成しない人が多い。小泉大臣は自分の主張を他者に言わせることで農水族の反発を防ぐと同時に「自民党は彼らから距離を置く」と示している。

最後に河野太郎氏の惨めな失敗を踏襲している。河野太郎氏はIT通を自認しているが実際の理解力は乏しいため数々の混乱を生み出している。河野太郎氏はITをプログラミングと先端技術だと思い込んでいるようだが実際にはバックエンドのオペレーションも重要である。小泉進次郎農水大臣は目標を与えプロジェクトを「愛国心による」とエンドースしているが、おそらく実際の仕組みづくりには関与しないだろう。

今後は空気による「守旧派」である農協バッシングが加速するものと予想される。日本人は細かい問題解決型の議論を好まない。空気により村の裏切り者を仕立て上げて石を投げるほうが好きだ。

2008年から2009年の麻生政権末期に千葉市では市長が建設を巡る汚職で逮捕され後に有罪判決が確定している。リーマンショックの景気後退をどう対処すべきかという分析議論は行われず「自民党ではもうダメだ」「公共事業は悪者だ」という空気が造成されていた。特に千葉市での風当たりは厳しいものだった。当事者たちは針の筵に座らされ市中引き回しの憂き目に合うのではないかと思えるほどだった。

この極端な公共工事悪玉論はやがて八ッ場ダムの工事中止という「暴挙」につながった。前原国土交通大臣の独断だったなどと伝わっている。八ッ場ダム中止は失敗とみなされたが一旦染み付いた「公共工事悪玉論」は容易に覆ることはなかった。二階俊博氏ら推進派はこれを「国土強靭化」という日本スゴイですね論にリパッケージしている。

楽天の三木谷社長はコメを中核に生鮮食料品などに業態を拡大するチャンスを得た。言うまでもないことだがコメだけを食べている家はないのだからおかずも売ろうということになるだろうし「愛国的な産業(例えば宅食を扱っているワタミなど)」にもチャンスが有る。また、備蓄米の価格をチェックするついでに「ブランド米」の価格をチェックする人も出てくるだろう。一般小売よりも効率的な流通を組むことができれば価格優位性が生まれスーパーのブランド米も価格を下げざるを得なくなるはずだ。

とここまでは日本スゴイですね派の人たちに向けていいことを書いてきた。気持ちよくなりたい人はここで読むのを終えることをおすすめする。物事には裏と表があるという事実は万人受けしない。

日本人はなかなか意思決定が出来ないが「災害対応」に弱い。そして一旦つくられた「例外措置」はなんだかんだで常態化する。

小泉進次郎農水大臣は2000円でコメを店頭に並べるといっている。これは楽天などのマージンや経費を差し引いた額を政治的に決めるという意味になる。差額は事実上の国家補償になりかねない。つまり税金(納税者のお金)で安いコメをばらまいているに過ぎないといえる。一方で石破総理はコメの価格が暴落すれば農家に補填をしてもよいと言っている。つまりこちらにも税金が投入される。実は国民は安いコメを税金で買っているのである。

さらに一度コメで成功体験ができれば他の農産品(例えばバターなど)にも同じことが出来ないかと期待が集まるはずだ。

日本人の所得が増えない限り政府に対する「食品補助」の期待は「補助が補助と見えない形」で広がってゆくことになる。ここで自民党が下野しないと考えるならばおそらく守旧派は公共工事を国土強靭化と言い換えたようなリパッケージを行うだろう。

最近、タイのインラック元首相がコメ・スキャンダルで賠償を求められているというニュースがあった。タイでは都市部と農村部の対立がある。タクシン派は農村の支持を受けておりコメを買い取ることで市場のコメ流通を操作し価格を釣り上げる狙いがあったとされている。

日本の構図に当てはめると江藤拓農林水産大臣が「インラック元首相」と同じ立場になるわけだが都市型政治家には「一部の事業体と不適切に結びつく」ことでコメ流通の独占を誘導するというインセンティブがうまれる。

もちろん日本がすぐにこうした政治状況に陥ると言うつもりはないが、政府の介入による市場操作は潜在的には政府を腐敗させる効果がある。

これまで日本のコメ流通が市場原理によって動いてきたことを考えると、日本はどんどんと中進国化が進んでいるということになるのだが、日本スゴイですね派の人たちにはこの結論は受け入れがたいであろうし、おそらく多くの人は気にも止めないはずだ。

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