Xでジョージ・グラス在日アメリカ大使の投稿を見つけた。なぜかストーリーが出来上がっているようなので、背景を調べてみた。
悪の組織中国共産党がアメリカ転覆を狙ってアヘン戦争を仕掛けているという筋立てのようだ。
この手の問題は扱いが難しいなあと思う。扱っただけで「中国共産党に対する印象操作だ」と憤る人もいるだろう。おいおい触れてゆくがおそらく在日の中国人に対するヘイトにも利用されるだろう。政治家の投稿を見るとすでにヘイトの温床なりそうな兆しがある。
だが実際にアメリカ・カナダ・イタリアでフェンタニル汚染が広がっており「日本も無縁」とは言い切れない。
ことの発端は日経新聞の「スクープ」だった。日本経済新聞の独自取材ということになっている。これに合わせるように在日アメリカ大使が中国共産党がフェンタニル危機を煽っていると根拠なく主張している。
日経新聞とグラス駐日大使の発言は結びついていないのだがネットではこの2つが結びついてしまっている。むしろ日経新聞が情報ソースを明らかにしていないことからも何らかのつながりがあったのではないかと考えることもできる。
トランプ政権ではこうしたストーリーの提示はよくあることなのだ。
Newsweekのイタリアに関する記事では「地政学的武器としての薬物」という概念が紹介されており、米中戦争の一つという側面がある。
米中間税交渉・日米関税交渉が行き詰るなか、グラス大使が状況を撹乱させるために日経新聞と協力してなにかを煽っている可能性も(もちろん証明はできないが)否定はできない。
よせばいいのに、これに素早く反応したのが支持率回復のきっかけを模索している玉木雄一郎国民民主党代表だ。政治家にとっては「麻薬的な即効性」がある。
すでにコメントが多数ついており「中国人を徹底的に捜査すべき」「行動制限しろ」などかなりの盛り上がりを見せている。おそらくこの問題を煽れば一定の支持を獲得することはできるだろうが周囲にヘイターが集まると穏健な支持者たちは国民民主党から離反するだろう。
即効性が高い分だけ毒性も強い「取り扱い注意」の分野だが玉木さんもついにこの分野に手を出さざるを得なくなったかと言う印象がある。
アメリカ合衆国のフェンタニル汚染のピークはコロナ禍だったようだ。次第に落ち着きつつあるようだがそれでも年間に7万人の死者があったという半年前の映像を見つけた。
本来ならば中国を責める前に自国の惨状をなんとかすべきだとは思うのだがアメリカの公衆衛生はかなり危険な状況だ。ワクチン懐疑論者のケネディ氏が保険福祉の責任者を努めているうえに、メディケイド・メディケアの予算削減も議論されている。
さらにガザ地区やイランの問題を見ているとトランプ大統領は「一般の犠牲者」についてほとんど関心がない。原子力爆弾は日本とアメリカの戦争を終結させたと言う基本認識を示したがその際にどれだけの死者が出たのかについては一顧だにしなかった。
フェンタニル問題も同様だ。死者やゾンビタウンの対策には興味がなくこの問題を使えば中国共産党を貶めることができると考えているのだろう。
今回の新アヘン戦争問題で気になることがある。
仮に中国がフェンタニル輸出国であると仮定するとなぜ中国や中継地点のメキシコではフェンタニル汚染問題が起きていないのか。特にメキシコは麻薬カルテルが街を支配しているという地域があるため国中にフェンタニルが蔓延していてもおかしくない。
日本では若者を中心に風邪薬などを大量服用する「オーバードーズ」が問題になっているという。医薬業界からの強い要請を受けた政府は市販薬のコンビニ流通を加速させたいが「若者に対するオーバードーズ対策」を義務付けてもいる。
フェンタニル汚染がアメリカ特有の問題なのか、それとも日本では「まだ」流行っていないだけなのかと言う問題があるためアメリカ合衆国がありもしない脅威を煽っていると断言できない。