8,900人と考え議論する、変化する国際情勢とあいも変わらずの日本の行方

石破総理がイスラエルの軍事行動を避難する声明を出した。「まだ早すぎるのでは?」と思ったのだが、どうやらその懸念は当たってしまったようだ。

今回の件で注目されるのは石破総理が外務省にきちんと確認を取ったのかという点だがおそらくこれを追いかけるメディアはないのではないかと思う。

外務省が新しい世界情勢に対応できなくなっていることがわかる。

トランプ政権はイスラエルから事前に通告を受けていたが積極的にイスラエルの行動を止めなかった。イスラエルと協調していると見る人もいれば状況に関心がないのではないかと考える人もいる。

事実攻撃直後「イランもようやく本気で核交渉に臨むのでは?」と言っていた。革命防衛隊のトップらが亡くなり大勢の核科学者も惨殺されているのだが大した関心はなさそうだ。

結果的にオマーンは協議の中止を発表した。もちろん今後の協議再開に期待したいところだが楽観的な見込みは立てにくい。

さらにトランプ大統領はイスラエルの攻撃を「エクセレント!」と称賛し、イスラエルの防空にも協力している。またイスラエルがアメリカ製の装備品を使っていたこともあっさり認めてしまった。

となると状況証拠的には「これはまずい」と考えたルビオ国務長官が、アメリカ合衆国とイスラエルを切り離すために「今回の件はアメリカ合衆国とは関係がない」と情報発信した可能性が出てくる。

このステートメントだけが宙に浮いているからだ。

日本は直後にイスラエルを非難する声明を出している。戦争はいけないことと決まっているがアメリカが関与したときだけは「ひたすら下を向いてアメリカの情報発信を待つ」のがこれまでの外務省の常識だ。軍事的には従属国なのだからこれ以外の選択肢はない。

今回の総理大臣ステートメントはルビオ国務長官の声明を受けたものと考えるのが自然である。これがアメリカ合衆国政府全体の公式見解だと誤認してしまったのだろう。

この時点ですでに「トランプ政権の情報発信には一貫性がない」ということはわかっている。外務省には情報収集能力がなく石破総理にも真っ当な政治的感覚がなかったと考えるのが自然だろう。

そもそもトランプ政権には一貫した外交方針がないのだからそれをいくら読み取ろうとしても意味のある答えは導き出せない。

しかし情勢変化はこれでは終わらなかった。

これまでフランスなどのヨーロッパはネタニヤフ首相のガザ侵攻を極めて厳しい調子で批判してきた。このためサウジアラビアとフランスは共同でパレスチナの国家承認を求める会談を行うことになっていた。

今回の攻撃を受けてこの会談がキャンセルになっている。厳密には一度開いて「延期」を決議するようだ。

ネタニヤフ首相のトランプ大統領の生誕祝がメッセージにも関連する一節がある。核兵器開発に固執するイランに対してイスラエルは毅然と立ち向かっておりその背景にはアメリカがいるという内容だ。そしてそれは同時にヨーロッパとアラブを守っているのですよと言っている。

中東イスラム圏と言ってもアラブ世界とペルシャ世界はライバル関係にある。イランという共通の敵を仕立てることでアラブとヨーロッパを味方につけようとしているのだ。朝日新聞の記事によるとフランスはイスラエル防衛に協力する可能性があるのだそうだ。

もちろん戦争はいけないことに決まっているのだが今回のイスラエルの軍事行動は「オセロゲームのように」ネタニヤフ首相有利な状況を作り出しつつある。だからネタニヤフ首相はこの表情なのだろう。彼は政治的な賭けに勝ったと確信しているのではないか。

大量の自国民と相手国を巻き込みながら政治的闘争に邁進するというのは平和な世界では狂気でしかない。しかし私達の目の前にあるこのまだ名前がついていない現実においてはそれはかならずしも「狂気」とは評価されないということだ。

プーチン大統領は100万人のロシア兵を失っているという推計がある。これまでの世界では自国の国力を消耗している証と評価されるのだが、新しい世界では100万人も兵士が死んでいるのにロシアはまだ立っているという評価になる。

石破総理も外務省もこうした「新しい状況」に全く対応できてない。関税交渉で打開策を見出すことができないのもむしろ当たり前と言えるだろう。

いずれにせよ、ユーラシア大陸の文明の結節点では外交交渉よりも軍事行動の方が優位という状況が生まれつつある。G7サミットでは共同ステートメントは出ないと言う方向だったが、今回の情勢変化によって事情は大きく変わるかもしれない。その時に石破総理がどんな表情でどんな説明をするのかにも注目したい。

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