選挙前になると「国民の政治参加は重要だから選挙に行くべきだ」という人が出てくる。では選挙の後に政党と政党の間の組み合わせが勝手に変わってしまったらどうなるか。有権者の判断は選挙後にリセットされ、投票はすべて無駄になる。
では「選挙に行くのは無駄」なのか。
今度は既得権益を持った人たちの声が強くなる。無党派層にとっては「もうどうすればいいんだ?」という状況だ。
おじいさんたちの間で勝手にそんな話が盛り上がっている。自民党と立憲民主党の大連立構想だ。
テレビ朝日が「専門家」の後藤謙次氏の話を軸に大連立構想について取り上げている。後藤氏は75歳で取材先もどうやら80歳代の人たちのようだ。おじいさん世代が勝手に大連立の世論を作り「活発な議論」を繰り広げているらしい。
まずはテレビ朝日の報道を見てゆこう。
- 森山幹事長は過半数に危機感を持っており様々な選択肢を模索する考えを示した。プレゼンテーションは「様々な選択肢」が大連立構想であるとは明言せずに大連立の話の枕として使っている。
- 野田代表は大連立そのものは否定したが専門家(後藤謙次氏)は期限付きのテーマ限定連立の可能性は大いにあるとしている。国難を大義名分にする可能性がある。
- 後藤氏の取材によると、山崎拓(88歳)氏は自民党と立憲民主党の大連立を主張し小沢一郎(83歳)氏が反論した。もう一人亀井静香(88歳)氏が同席している。
- 後藤氏は石破総理と玉木代表の相性は良くないと考えている。
- 維新は連立を明確に否定しているが「個人としての参加」を模索。鈴木宗男(77歳)氏が間を取り持ち維新から自民党への人の流れを作るのではないか。
- 選挙協力をしている共産党は立憲民主党の大連立には反対。
- 公明党は大連立には否定的。理由は選挙区調整。
時事通信によると岸田文雄前総理大臣も大連立を模索している。財源を先送りした年金制度改革がトントン拍子に進んだことから野田元総理大臣との間では話が進めやすいと考えているようである。
立憲民主党では長妻昭氏が反対しているという。また小沢一郎氏も主戦論者で堂々と不信任案を突きつけて政権を奪取すべきだとしていたが野田元総理は応じなかった。
いくつかのことがわかる。
- 連立や政党協力の枠組みは既得権である選挙区の分配の一環として捉えられている。
- 自民党と立憲民主党の(少なくとも執行部では)間に実は政策の違いはないのでどちらに入れても実は大差はない
- 自民党の中には保守派が一定数存在し、立憲民主党には進歩派が一定数存在するため分配機能としては結託することができるがイデオロギーはまとまりようがない
- 維新はそもそも政党としては成立しておらず鈴木宗男氏の手引きで有力議員の引き抜きが行われる可能性がある
この中に出てくる小沢一郎氏は左派社会党を排除して保守だけで権力闘争を行うべきだと主張していた。このため、結果的に自民党と立憲民主党は政策に違いがない「似たりよったり」の政党になっている。しかしそれでも小沢一郎氏は選挙による権力闘争によって誰が支配権を握るかを決めるという考え方に固執している。選挙は権力闘争の道具なのである。
成長戦略がない状態で政策論争を進めると結果的に限られた原資の分配競争となり勝者のない永遠の分裂状態になる。実際に今の少数与党状態はその現れといえる。
これを解消するためには選挙の外で長老たちが結託し選挙後の協力関係について模索せざるを得なくなる。おじいさんたちの間のカウンターは「(政策に大差がないにも関わらず)選挙によって権力闘争に決着をつけるべき」という昭和的闘争史観である。
話し合いの主体は高齢者であり議論には若手が一切出てこない。今回の登場人物で最も若いのは「相性が良くない」とされる玉木雄一郎氏を除くと野田佳彦氏と石破茂氏だ。どちらも68歳の「若手」である。
選挙に行くのは無駄なのではないかとは思うのだが、仮に投票率が下がると既得権を持った様々な組織が有利な選挙となってしまう。
もう考えたくないのが本音だが、とはいえ現状を冷静に見るのは重要だろう。
さすがに選挙の後に投票結果をご破産にするのは憚られると考えているようで、何らかの国難をでっち上げる可能性が高いようだ。どの媒体が「国難」という空気を作るために加担しているのかを観察するのも重要かもしれない。
地味党政権は諸課題の解決をアベノミクスで先延ばしにしてきた。しかしこれも期限切れを迎え低成長からコストプッシュ型のデフレに移行している。
また自民党政権はこれまで日米同盟維持・推進派である点を強調し政権基盤を確かなものにしていたが、こちらもついに3.5%が既成事実化しそうだ。こちらは大きな新聞も入ったキャンペーンが行われており選挙の後に「国難の一貫」として「防衛費大幅アップやむなし」という空気が作られる可能性があるのではないか。
石破政権は3%から3.5%で「大いに怒った」とされているのだが、新基準は5%である。選挙では争点にならず、選挙後に「課題が急浮上」するのではないだろうか。