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卑語を使いイスラエルとイランを罵る トランプ大統領が抱え込んだ火種 


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トランプ大統領がイスラエルとイランの間の停戦を宣言した。その後無事に停戦は成立し、中東に束の間の平和が戻ってきている。日本ではイスラエルの勝利・イランの敗北とみなす論調が主流のようだ。

しかし、ABCニュースなども見るとトランプ大統領は苛立ちをつのらせている。一体何が起きたのか。そしてこれから何が起きるのか。

トランプ大統領はイランに対する軍事介入を実行。この時点では外交よりも軍事を優先する姿勢にもやもやを感じた人が多かったかもしれない。

その後、アメリカ合衆国が原子力災害を巧みに避けイラン側の米軍基地攻撃もアメリカの人的被害を避けるなど「プロレス」ぶりがある程度わかってきた。結局、この地域ではある程度の軍事力を使わないと地域和平が維持できないということが改めてわかった。これをヤクザの交渉に例える人もいた。

Yahooニュースでいくつか記事を拾った。イスラエルが勝利しイランが敗北したと言う論調が多い。核兵器を持つしか体制は維持できないとイランは改めて考えたのではないかと指摘する記事もあった。

では、これはトランプ大統領にとっては外交的勝利だったのか。ABCニュースを見ると「トランプ大統領がイランとイスラエルを罵った」とする記事がある。一体何が起きたのか。

Axiosによると停戦合意後にイランから3発のミサイルが飛んできた。イスラエルはこれをすべて迎撃したがイランの停戦合意違反に反発し攻撃を加えようとした。そこにトランプ大統領が割って入りイスラエルを抑止したのだという。

BBCは格調高くその様子を書いているがどこか嫌味に感じられてしまう。実際にABCニュースがその時の様子を動画に起こしている。確かに「ピー」という音が入っている。

こうした事態の中、トランプ氏はイスラエル国防相の発表から約3時間後、「イスラエル。その爆弾を落とすな。そんなことをすれば大々的な違反だ。操縦士たちを帰還させろ。ただちに!」とすべて大文字で、自分のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に書いた。さらにその後は記者団に対し、イランもイスラエルもあまりに長年戦ってきたため「何をしているかわかってないんだ」と、米放送局では通常、消音などの措置を取る卑語を強調語として交えて話した。

トランプ氏、罵倒語を使いイスラエルとイランを非難(BBC)

この後、イランはアメリカとの核兵器開発交渉に入らざるを得なくなると考えられている。ハメネイ体制はかなり苦しい状況に追い込まれており、屈辱的な合意を結ばざるを得なくなるのではないかとする記事もあった。またネタニヤフ首相は今回の勝利を自分の手柄として大々的に喧伝するのではないかと言われている。

その意味では今回の一連の出来事がネタニヤフ政権の勝利・ハメネイ体制の敗北であるのは確かなようである。

ではこれはトランプ大統領にとっての勝利であり地域に平和をもたらすのか。

もともとトランプ大統領は国内で予算と移民という2つ問題を抱えていた。中東ではガザ問題が片付いていない。イラン問題はネタニヤフ首相が新しく持ち込んだ突発事項なのだからトランプ大統領は「かろうじて火消しに成功した」に過ぎないといえる。

そもそもイランは核兵器の開発は目指しておらず、国際的な圧力対する対抗措置としてウラン濃縮を進めてきたという事情がある。つまりこれはそもそもありもしない危機だった。さらにこで「外交は無力であって力のバランスのみが地域に仮初の安定をもたらす」ということがわかったに過ぎない。

状況としてはアメリカを中心とする多国籍軍の存在でかろうじて保たれている朝鮮半島と似たような状況が生まれる可能性が高い。またトランプ大統領在任中に停戦合意が崩れればこれはトランプ大統領の失敗として内外からの批判を招くだろう。

トランプ政権もネタニヤフ政権も「ハメネイ体制の崩壊が問題を根本的に解決する」と思い込んでいるようだ。

しかし、イランは人口9000万人の国であって国土面積は日本の4.4倍もある。また北部には非ペルシャ系の民族(アゼリ人とクルド人など)を抱える多民族国家だ。

ロシアとヨーロッパの間には障壁がない。このためロシアは緩衝地帯を作り西側世界の侵略を防ごうとしている。一方でテヘランは山岳とカスピ海に囲まれており外部からの自然障壁になっている。一度政権が崩れればその混乱は我々の想像を遥かに超えたものになるだろう。

実際に、ハメネイ体制が作り出した濃縮ウランは行方がわからなくなっている。仮にハメネイ体制が崩壊してしまえば各地に反体制派が生まれ収拾がつかない状況が生まれかねない。

日本に取ってはホルムズ海峡が安定するためにはイランが一枚岩の国家でなければならない。イランは高い山岳に囲まれた国なので一度統一政権が崩れてしまうとイラン全域の安定性が大きく損なわれ日本の経済に大きな影響が出かねないという事情もある。

西側世界がこぞってイランを批判し続ければイランは却って追い込まれることになる。日本は伝統的にイランとの関係が良いためイランのよき弁護人になれるが、石破政権にその意志は見えない。