日本は対米関税交渉で頭が一杯のようだが、アメリカ合衆国では盛んにICE関連の報道が出ている。その裏で新しい危機が起きつつあるようだ。これを書き始めた時点では「注目が集まっていない」と書いたが数時間のうちに日本のメディアでも取り上げられるようになった。中東戦争の再来を思わせるからだ。
トランプ政権が「中東は危険な場所だから一部の在イラク大使館員を避難させる」と宣言した。米軍も家族の自主退避を勧告したそうだ。ただしこの政権は行き詰まりを他人のせいにする傾向がある。
表向きの理由は「核合意で追い詰められたイランが何をしでかすかわからない」ということになっている。
しかし、Axiosはこれを疑っており「MAGAの内部からトランプ大統領に対処を求める声が出ている」と報道する。
- Exclusive: U.S. fears Iran’s response to Israeli strike would be mass casualty event(Axios)
- MAGA warns Trump of “massive schism” over Israeli strikes on Iran(Axios)
ただし説得の対象はイランではなくイスラエルだ。
トランプ大統領は外交成果を焦り各国と様々な交渉をしている。しかしアメリカ合衆国はこれらの交渉には行き詰まりつつある。例えば中国はレアアースの輸出を制限しアメリカの企業に大きな影響が出始めている。
トランプ大統領はイスラエルの頭越しに交渉を開始していた。ネタニヤフ首相は批判は避けていたがかなり頭にきていたようだ。そこでイランとの交渉が決裂した場合に先制攻撃を仕掛けイランの核施設を攻撃するのではないかと懸念する人達がいるのだ。
イスラエルは明らかにアメリカ合衆国を対イラン戦争に引きずり込みたいが、MAGAの中には「アメリカ合衆国は世界の警察官を引退しアメリカ国内の問題に注力すべきだ」と考える人が多い。ICEの移民排除に徐々に軍事組織を導入しているのもその流れで説明ができる。アメリカ第一主義者は国外への関わりを縮小し余った人員を国内に動員したい。
しかしながら、仮にトランプ大統領がイスラエルの抑制に失敗すればMAGAの中にいる親イスラエルとアメリカ第一主義者の間に深刻なダメージが生じてしまうことになる。
ただし一連の動きはアメリカの国内事情であって証明された事実というわけではない。このためBBCはイラクからの大使館職員らの退避とイスラエル・イランの動きを併記しつつ両者の因果関係については扱っていない。明らかに両者の関係は見えているが証明されていない以上は接続できないということなのかもしれない。
むしろ日本のメディアのほうがトランプ大統領がイスラエルを警戒しているという報道の仕方に躊躇がないようだ。アメリカのように親イスラエル要素がないからだろう。
アメリカの内部事情はよくわからないがアメリカ合衆国が交渉の打ち切りを宣言した瞬間にイスラエルがイランを刺激し中東に大きな問題が起きる可能性がでてきたことになる。その確度がどの程度のものかを各社は検討していないが仮に何かが起きれば我が国の経済にも大きな影響が出るだろう。
ただしこうした「偽りの説明」は何もアメリカ合衆国政府の専売特許ではない。日本政府は今回の一連の動きを「災害」と捉え国内政治の行き詰まりを隠蔽するように積極的に利用しようとしている。
石破政権は野党党首らに「関税交渉は五里霧中」と説明した。赤澤担当大臣のフレーズをそのまま引用したものである。日本政府にはカードがない。
しかしながら政権は自分たちの交渉が行き詰まっていることは認めず「アメリカでは対ICE暴動で政治情勢が流動化しているからトランプ大統領がG7サミットに出てくるかわからない」と因果関係の付け替えを行っている。つまり交渉がうまくゆかないのはアメリカの国内事情であり石破総理の失点ではないと言おうとしていることになる。
野田代表も党内をまとめることができず不信任決議案を「関税交渉の国難であるから不信任案は出せない」とうそぶいており、森山幹事長も「関税交渉の行方を見なければ総辞職が行える状況にあるのかはわからない」と主張した。
台風がやってくるから政治休戦すべきだということだが、そもそも両党とも将来ビジョンを提示できておらず政治的闘争には落とし所がなかった。