パームスプリングスで不妊治療クリニックが襲撃された。当局はテロであるといっているが、その思想とは「反出生主義(anti-natalist)」というそうだ。容疑者は自らが仕掛けた爆発物の犠牲になっており「拡大自殺」的な要素もありそうだ。
パームスプリングスで不妊治療クリニックが襲撃された。パームスプリングスはロスアンゼルスからもサンディエゴからも離れた場所にあり比較的裕福な人が多い地域として知られている。不妊治療クリニックは卵子を採取する過程で選別を行ったりするため原理主義的なキリスト教徒の中には殺人であると考える人がいる。またHuluでは裕福な同性愛者たちを主人公にしたMid-Century Modernという番組が放送されている。
つまり普通に考えると
- 一般庶民に手が届かない行き届いた医療に対する恨み
- 原理主義的なキリスト教徒の文化戦争の一環
などの可能性が考えられる。
BBCもクリニックを次のように説明している。
ARCのウェブサイトによると、同クリニックはコーチェラ・ヴァレー地域で最初の、完全サービスを提供する不妊治療施設で、体外受精の研究施設にもなっている。生殖能力に関する評価、体外受精、卵子の提供と凍結、同性カップルの生殖サポート、代理出産などのサービスを提供しているという。
不妊治療クリニック前で自動車爆発、「意図的テロ」とFBI 米カリフォルニア(BBC)
しかし調べてみると「誰も子どもを持つべきではない」し「そもそも誰も生まれてくるべきじゃなかった」という反出生主義という思想に基づいている可能性が高いそうだ。父親は息子がそんな思想を持っているとは知らなかったとしている。
確かに仏教のように「生まれてくることによって苦しみが生まれる」という考え方をする宗教はある。しかし、仏教は誰も生まれてくるべきではないから他人を破壊しようという考え方には発展しない。
容疑者が爆破で亡くなっていることから、そもそも自分は生まれてくるべきではなかったと考える容疑者が拡大自殺を図ったと考えることは出来そうだ。
「いかにもアメリカ的だ」と考えた。
だがその考えは間違っているのかもしれない。破壊願望をこじらせて周りを巻き込む人は日本でも珍しくない。
南北線東大前駅のホームで人を切りつけた戸田佳孝容疑者は名古屋の裕福な家庭の生まれだった。本人は「親の教育熱心さが行き過ぎると子どもがグレる」と示したかったとしている。戸田容疑者は司法試験に失敗し、名古屋から東京に移り住み、その後100万円で長野県生坂村の空き家を購入している。孤立した環境でこの容疑者がどんな思想を持つに至ったのかはおそらく社会的に言語化されることはないだろう。
若葉区若松町で高齢女性を殺害した15歳の少年は(本人曰く)複雑な家庭に生まれ度々警察から指導を受けていた。動機は家族から逃げ出すために少年院に入ることだったのだそうだ。この少年はそもそも警察の指導を受けていたのだが、おそらく警察は少年の孤独を理解することは出来なかった。
今いる環境から逃げ出したい人がどうしていいかわからず周りを巻き込んで騒ぎを起こすことは日本でもアメリカでも珍しいことではない。
ただしやはり日米には違いがある。日本の事例では孤独が言語化されたり社会化されることはない。日本でも要人を狙ったテロが起きても、その後の容疑者が思想を体系化・言語化することはなく、社会もそれを手助けしない。
アメリカでは虚無思想を社会に対する恨みを募らせる人たちが「教義」を作り結びつく傾向がある。今回の事件を受けてRedditは反出生主義のコミュニティを禁止したそうだが、10000人規模のフォロワーがいた事がわかっているそうだ。日本は個人の虚無感が社会化されることはなく人々は孤立した状況に置かれている。一方でアメリカ合衆国ではこうした虚無感は共有され「思想」へと発展する。とにかく言語化・定式化したがる文化なのだろう。
The fringe philosophy has found an audience online, particularly on Reddit, where the Efilism community had over 10,000 subscribers, according to archives.
Reddit bans an anti-natalist group after Palm Springs explosion(NBC)