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トランプ大統領がNATOの集団防衛義務に疑義 問われる日米同盟へのコミットメント


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NATO首脳会談に出席するトランプ大統領がNATOの集団防衛義務に疑問符を投げかけNATO加盟国に波紋が広がっている。

この発言は日米同盟の有効性にも疑問符を投げかけるものになるだろうが日本のメディアはこの問題をスルーするのではないかと思う。

今回の一連のトランプ大統領の発言で2015年の安全保障体制議論の根本的欠陥がわかった。日本はありもしない前提をおいて議論を進めてきた。安倍政権の議論は砂上の楼閣だったのだ。

Bloombergによると新事務総長のルッテ氏はトランプ大統領を刺激しないように入念に準備を進めてきた。

ところがNATO首脳会談に出席するためアメリカを飛び立ったトランプ大統領が相互防衛義務を疑問視する発言を行っている。Bloombergの表現は「定義による」となっている。

ABCニュースは次のように表現する。「コミットを拒否した」と強い表現だ。

On his way to the summit, Trump questioned a core tenant of the alliance as he refused to commit to Article 5 — the agreement of collective defense among NATO nations.

Trump attends NATO summit after US strikes on Iran and a ceasefire in question(ABCニュース)

現在の国際社会は国連(厳密には第二次世界大戦の戦勝国)を中心とした集団安全保障体制を基礎にしている。しかしこれはかなり実験的な取り組みであり完全に実施されていない。このためNATOのような集団自衛体制が作られた。

敵が攻撃してきたときには無条件で反撃すると言う前提がなければ集団自衛体制有効に機能しない。

だが、トランプ大統領はこれは「定義による」と言っている。これまでの発言を見ると「アメリカに対する貢献次第では助けたり助けなかったりする」という意味合いになる。

“Depends on your definition. There’s numerous definitions of Article Five. You know that, right?” Trump claimed.

Trump attends NATO summit after US strikes on Iran and a ceasefire in question(ABCニュース)

ではトランプ大統領はこれに明確な定義を与えるだろうか。おそらくディール重視で思想に一貫性を持たないトランプ大統領は定義を与えないのだろう。最後まで迷い続けたり、嘘をついたりするだろう。これはイランに対する攻撃姿勢を見ていも明らかである。

イランとイスラエルの問題を見ると「お気に入りの国だけを守る」ということになりそうだ。だが結果的には場当たり的に介入しその後「足抜け」ができなくなる。トランプ大統領が介入した後には外交努力は破壊され力によって仮初の平和を維持せざるを得なくなってしまうのだ。

Bloombergはルッテ事務総長は沈静化に努めていると書いているがトランプ大統領がNATO存在の前提を破壊した。この事実は覆い隠しようもない。

そもそも今回の発言はなぜヨーロッパ各国に波紋を広げたのか。

それはヨーロッパが独力で国家総動員体制の構築に成功しつつあるロシアに勝てないと悟っているからである。ヨーロッパは減税GDP比5%の防衛費負担を法制化する方向で調整に入っている。それでもアメリカに抜けられるよりもマシだと考えているからだ。ロシアとヨーロッパの間には自然障壁がなく平原が広がっている。鉄のカーテンでも敷設しない限り紛争が続くということだが、今やヨーロッパはアメリカの存在なしには国と繁栄を維持できない。

ここまでの情報を考え合わせるとこの問題はそのまま日本にも当てはまると気がつく。停滞しているとは言え日本の繁栄もアメリカの存在によってのみ保証されている。

だが、日本のメディアはトランプ大統領の発言を扱わないのではないか。

トランプ大統領にとって日本を守るか守らないかはdependsである。つまり場合によって助けたり助けなかったりする。そして助けると嘘をついて助けないかもしれない。そして場合によっては地域から撤退するかもしれないといって日本を脅しにかかってくる可能性もそれなりに高い。

ここまで明白にわかっていながら、日本人がこの問題を避け続ける理由はなんだろうか。

第一に日本は日本が中国に負けつつあると薄々気がついている。だが、これを口に出して認めたくない。本音では日本が単独で中国に勝てるはずはないと言う気持ちがありアメリカ合衆国の支援に期待を寄せ続けている。

次に国内が一枚岩ではなく「これまで以上の軍事費支出の議論が進まない」ことがあらかじめ予見されている。参議院選挙の争点は一時的な支出か減税かだ。つまりこれまで通りの支出さえ賄えないほど国力が衰退している。

安倍政権下で2015年に成立し安保法制議論には様々な問題があったのだが最も大きな問題は「アメリカ合衆国には戦略的一貫性があるのだから日本もそれに合わせるべきである」というありもしない前提だったのだろう。

そもそもそんなものはなかったと気がつくまで日本は10年を浪費したことになる。