インドに亡命しているチベット仏教の指導者ダライ・ラマ14世が声明を発表し「次も転生する」と宣言した。TBSは「転生」とカギカッコ付きにしているがチベット人がそう信じているならそれでもいいのではないかという気がする。中国は反発している。中国共産党は精神指導者の転生にも「ご指導」ができると考えているようだ。中国の共産主義のほうが宗教化していると言える。
ダライ・ラマ14世が中国を脱出しインドにたどり着いたのは1959年だそうだ。チベット人はインドにも根づき、90歳になろうとしているダライ・ラマ14世はそろそろ古い肉体を脱ぎ捨てる必要がある。
TBSは「転生」としており、科学的にそんな事はありえないだろうと言うニュアンスを含ませているが当事者であるチベット人が転生を信じているのであればわざわざカギ括弧付きにする必要はないのだろうと思う。
CNNはそもそも転生という言葉を使わず「次の指導者を指名する」と言う書き方になっている。
科学的に解釈するならばチベット仏教は内部で既得権が固まることを避けるためにわざわざ外部から現在の既得権益外の人達を指導者に据えてきたのだろうと考えられる。だが何でもかんでも合理性で説明するのは無粋というものだ。
非常に興味深いのは中国の対応だ。
中国のチベット人は今でもダライ・ラマを敬愛しており分離独立運動につながりかねないと言う危機感もある。
ただそれよりも「中国文化独特」な考え方によるところが大きい。指導的な立場にある人や組織が独占的にルールを決められるという極めて父権制の強い社会的合意がある。
中国共産党は「共産党が中華民族(これは漢民族という意味ではない)を指導する」という建前を持っている。この建前に従えばチベット族の民族指導者も中国共産党より「下」ということになる。だからチベット人が「習近平に従わない人」を崇拝することは許されないのだ。
共同通信によれば中国共産党は政府が公認するパンチェン・ラマ11世が習近平国家主席に「謁見」したという表現を使い上下関係を示しているそうだ。
中国共産党はかねてより台湾が中国の不可分の領土との見解を示し続けている。日本人から見ればなぜそんなに拘るのだろうか?という気がするが中国人にとって見れば「秩序は共産党が独占的に決めるのであって他の国からの干渉は受けない」事が重要なのである。つまり中国共産党に服さない台湾は認められないと言う態度。
興味深いことに中国人はこのときに「清朝の伝統」を持ち出すことがある。Quoraにこの問題について書いたところチベットの指導者を中央が認可するというのは清朝以来の伝統であると書いてきた人がいる。ここで「とはいえ清朝は満人の王朝でありその時の漢人と言えば……」などと持ち出すと話がややこしくなる。
いずれにせよ「理屈」を持ち出すことで、結果的に中国が輪廻転生に介入できると主張していることになり「共産党も宗教めいてきたな」という印象を持つ。