9,000人と考え議論する、変化する国際情勢とあいも変わらずの日本の行方

ウクライナとアメリカ合衆国が鉱物資源協定を結んだ。ファンドを作って鉱物利権をアメリカとウクライナがシェアする協定だが鉱物資源の所有権はウクライナ側に残るという。

日本にもファンドの「奉加帳」が回ってくるのではないかと考えたのだがそのような報道はなく、締め出されたヨーロッパが怒っているという話も聞かない。

もちろん防衛戦争が終わらなければ鉱物利権が生かされることもないのだろうがベッセント財務長官はうまくやり遂げたなという気がする。

報道を見る限りディールの特徴は「特に和平に貢献することはない」が「かといって自由主義陣営からも特別の懸念が表明されているわけではない」という点にあるのかもしれない。

トランプ大統領が盛んに喧伝していた「アメリカがウクライナの鉱物資源を所有する」ということにはならなかった。トランプ大統領は1980年型のビジネスマンなので「所有」を重要視するが、ベッセント財務長官はそれよりも新しいビジネスモデルを持っている。トランプ大統領に気づかれることなく自分たちに都合がいいようなスキームが作れれば「彼の勝ち」ということだ。

戦争が終わればアメリカに有利な利権となるがそもそも戦争が終わる兆しはない。ウクライナ側はグローバル投資を呼び込むとしており他国を締め出す内容にもなっていない。

唯一の混乱はアメリカ側が鉱物資源問題とファンドの問題を同時に署名するようにと求めた点にあるようだ。ベッセント財務長官のファンドに対する思い入れを感じる。

Ukraine said it was ready to sign but ran into a last-minute snag when the U.S. requested it sign both the mineral resources agreement and the investment fund agreement at the same time, a Ukrainian official told ABC News. The U.S. refuted that series of events in comments during President Donald Trump’s Cabinet meeting Wednesday, saying it was “ready to sign” the agreement but the Ukrainians decided on Tuesday night to “make some last-minute changes,” Bessent said.

US and Ukraine sign mineral resources agreement(ABC)

ベッセント財務長官は厳密にはホワイトハウスではなくウォール・ストリートの利権を代表している。つまりファンドに資金を集めてその運用益が得られるようなスキームが作れればそれで良いということなのではないかと思う。

日本との関係でも「ベッセント財務長官の友人」というエコノミストが「日本にとってもWin-Winとなる日米国家ファンドを作るべきだ」と提案している。ウォール・ストリートは国家利権に食い込み自分達が優先して儲けを得られるようなスキームを作ろうとしているのだろう。こうしたファンドは日本で言えば「特別会計」のようなものだ。つまり口うるさい連邦議会の監視の外に作られることになる。

ベッセント財務長官はトランプ大統領が「もしかするとプーチン大統領は戦争を止めるつもりがないのかもしれない」と迷い始めた時期を狙って自分とウォール・ストリートの本当の目的をねじ込んだことになる。いっけん人間動物園のようなホワイトハウスの人間関係に翻弄されているように見えるが、意外と強かな人といういう印象である。

日米関税交渉は自動車やコメなどの農産品が主要議題だと(少なくとも日本では)見られているのだが、おそらく交渉担当者の狙いは別のところにあるのだろうと感じる。

ただしアメリカ合衆国の中間所得者の不満は「ITと金融が勝ちすぎることで製造業の地位が不当に脅かされている」ところから来ている。つまり誰かがベッセント財務長官らの「真の狙い」に気がついたところでおそらくホワイトハウスには深刻な亀裂が生じるだろう。このXデーが4年以内に来るのかも注目ポイントになりそうだ。

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