トランプ大統領との不仲と仲直りを繰り返しているイーロン・マスク氏が新しい政党構想を披瀝した。アメリカでは事実上第三党が排除されており実現の見込みはそれほど高くないそうだが、マスク氏はそもそも余り実現可能性は重要視しなのはないかと感じる。では、マスク氏はどのような政党を模索しているのか。そしてそれは実現する見込みがあるのか?
イーロン・マスク氏が新しい政党構想を発表した。ただし報道の時点ではSNSで構想を述べるにとどまっており、すぐに実現されるとは見なされていないようである。
- Elon Musk floats strategy for new political party(Axios)
- Elon Musk wants to create a new political party. Building rockets may be easier | CNN Business
- Elon Musk touts “laser-focus” plan for how new party can control Congress
それぞれの報道をまとめると次のようになる。
- マスク氏は現在の政党制度を「ユニパーティ」と見ている。つまり一党独裁で選択肢がないと考えている。
- さらに各政党がアメリカ合衆国の負債を増やすことは危険だと感じている。
- 接戦状態では第三党がキャスティングボートを握ると考えており、必ずしも政権を奪取する勢力に育つ必要はないとの認識。
これについてアメリカのメディアは否定的な見解を示している。現在のアメリカの選挙制度では政党への助成は厳しく規制されている。また様々な選挙制度は二大政党の既得権を守るようにデザインされており、そこに第三党が割り込むのは難しいのだという。
アメリカ合衆国はよく中国共産党を「一党独裁」と批判する。確かに政党が2つあれば見かけ上は民主主義だが見方を変えれば既成政党による寡占状態であり健全な民主主義とはいえないと考えることもできる。
ただその後マスク氏はXを更新し「アメリカ党」の設立を宣言した。2つ頭のヘビの投稿をリポストしており「共和党も民主党も本質は一緒だ」と主張している。ただしこれが政党なのかコンセプトなのかはよくわからない。
Forbesの記事によるとそもそもマスク氏の政治姿勢に共感する人は多くない。あくまでもトランプ大統領の協力者と言う位置づけでありトランプ氏の敵対勢力になってしまえばそれほど多くの支持は集まらないのだろう。
ではマスク氏の新党構想は単なる思いつきで終わってしまうのか。
マスク氏のアンケート結果では新党を求める人が多かった。それなりの数の投票が集まっていて、第三党を求める声が増えているのは確かなようだ。
こうした声は第一期トランプ大統領の退任後「共和党はエスタブリッシュメントの政党でありアメリカの有権者を代表していない」と考える人が多かった。この潜在的な不満を汲み取ったのがトランプ大統領だ。
トランプ大統領の政策には富裕層を優遇するものが多いのだが、アメリカの中間・低所得者はまだこの問題には気がついていない。例えば残業代やチップは非課税だが2028年に失効する。仮に有権者がこの政策の継続を求めるならば「延長」のために共和党を支持する必要がある。一方で富裕層に恩恵が多い減税を実施するための原資として期待されている関税は事実上の「輸入品使用懲罰税」だが、トランプ政権は外国政府がアメリカ合衆国の要請に従って支払うと説明しており、おそらくこれを信じている有権者も多いはずだ。
ギャロップの説明によれば「アメリカ人の多くが関税に対して懐疑的な見方をしている。ただし共和党支持者は長期期な影響を楽観視している」そうだ。つまり、なにか怪しいなあとは思うが「トランプ大統領がいいようにしてくれるだろう」と考えているのだ。
また、内外に敵を作る手法やアメリカのプライドを刺激する発言などは好感されている。トランプ大統領は建国250周年を利用し「アメリカ第一キャンペーン」を実施する意向を示している。
つまりトランプ大統領の一連の政策が支持される限りはマスク氏の出る幕はないということになる。
問題は共和党の支持者たちが「気がついてしまった」ときだろう。彼らはおそらくエスタブリッシュメント支配の共和党は支持しないのだろうし、かといって意識高い系の民主党を支持することも考えないだろう。つまりトランプ大統領が言語化の苦手な支持者たちを共和党につなぎとめる防波堤のような役割を果たしており、これが決壊したときにはアメリカの民主主義は崩壊の危機に立つということになる。
日本の政治状況において「国民民主党が支持を失ったことで一気に右傾化が進んだ」と指摘する人達がいる。中には「国民民主党防波堤理論」などと言っている。
マスク氏の「力学的には選挙戦で勝利する必要はなくキャスティングボートを可視化してやれば売り物になる」という考え方は間違っておらずむしろニーズは高まっている。マスク氏は実現可能性を度外視するからこそテスラやスペースX社を成功させることができた。今アメリカの政治状況が既得権有利だからといってそれが未来永劫に続くとも思えない。
すでにこのやり口で成功しているのがロバート・ケネディJR氏だ。土壇場で第等選挙を降りてトランプ陣営に加わり保健福祉省長官の地位を手に入れた。選挙以外にも様々な出口戦略があるということがわかる。