イランの核施設攻撃については様々な意見が出ている。トランプ政権側はイランの各開発能力に壊滅的なダメージを与えたと主張しておりアメリカとイスラエルの政府機関はこのトランプ大統領の発言をバックアップするエビデンスを提出している。
ところが、これを否定するリークが次から次へと出てくるのだ。
共同通信と読売新聞の記事を見つけた。例によって伝聞になっており要領を得ない。
オリジナルの記事はワシントン・ポストのもの。
- Intercepted call of Iranian officials downplays damage of U.S. attack(Washington Post Exclusive)
- After Iran-Israel clash, there’s more reason to fear a nuclear bomb(Washington Post)
REUTERSが情報筋と見られるひとに「これは確かなのか?」と聞いているようだ。情報筋は実は確かではないと答えている。
ワシントン・ポストも認めているように、断片的な情報の寄せ集めでありコンテクストを無視した内容になっている可能性が否定できない。結局「何がなんだかはっきりしない」ということになるのだから騒ぎ立てる必要はないのかもしれない。
では、結局この問題の要点は何なのだろうか?としばし考え込んだ。それは不確実性の増大だ。
第一にイランの体制はかなり追い詰められていてなにか無茶なことをしでかしかねない状況に置かれている。イラン人の気質はかなり合理的で辛抱強いそうだが、さすがに追い詰められると面倒なことをやらかしかねない。
イランはロシアに接近したが助けてもらえなかった。中国はアメリカから「ホルムズ海峡問題についてイランに話をするように」と要請されたがイランの態度を変えることは出来なかった。現在、イランはサウジアラビアなどの湾岸諸国に接近しているそうだが体制維持を優先させて核兵器開発に傾斜するとこの関係も壊れてしまう可能性がある。
本来ならばイランの体制と核兵器拡散に向けて世界各国が協力してほしいところ。そのためにはアメリカ国内が一枚岩になる必要がある。
ところが、トランプ大統領はイランへの攻撃はうまく行ったと主張している。だからアメリカ政府の関係者がそれを否定するような事は言えない。結果的にアメリカの外交はチグハグなものになり各国もアメリカ合衆国のインテリジェンスを信頼しなくなる。
REUTERSが「情報は不確実です」と伝えても、それは単にトランプ大統領を恐れてのことなのかもしれない。実際にレビット報道官はかなり強い調子で「ナンセンスだ!」と反発している。
リークが増えていところを見ると内部には「おそらくうまく行っていない」と考える人達が多いのだろう。トランプ大統領が結果的にイランの核兵器製造を助ける動きを取っているためなんとかしたいが、表立っては何も言えないと言う歯がゆい状況だ。
この現状に最も焦りをつのらせているのがIAEAのグロッシ事務局長だ。
CBSのインタビューに答えて数ヶ月かそれよりも短い期間で遠心分離機を作動させて濃縮ウランを作れると分析しているとREUTERSが伝えている。主要な科学者が殺されてもノウハウをイランから消し去ることは出来ないそうである。BBCも同じインタビューを引用しているのだが、IAEAの査察を受け入れない可能性が高いとしている。
つまりトランプ大統領が破壊したのはイランの核施設ではなくIAEAの合意だったということになる。グロッシ事務局長はアメリカの世論に訴えているわけだが、これを果たしてトランプ支持者が聞いてくれるものなのか。疑問が残る。
ワシントン・ポストは今回の一連の出来事が中国・韓国・サウジアラビアの核兵器への願望を高めるのではないかと懸念しているようだ。核兵器開発を巡る環境が不確実になればなるほど「自分たちも核兵器を持って武装しなくては」と考える国が増えてしまうのである。
世界がこのような状況にある時、日本も核武装の議論を始められるかということになるが、とてもそのような状況にはないんだろうなという気がする。おそらく今何が起きているかを知らないでいる人のほうが多いのではあるまいかと思う。とはいえ外交的に不確実性を取り除く努力ができるか。少なくとも石破総理には無理だろう。