先程の赤澤大臣の話の中で「アメリカの議会は大詰めを迎えている」と書いた。一体どんな議論になっているのかをかいつまんで説明することにする。上院での最終審議直前でこの後下院に差し戻されて本決まりになる。
おそらく「本決まりになるのになぜ赤澤さんが巻き込まれるのか」と考える人がいるのではないか。
包括予算案は下院をすでに通過しているのだが上院でフランケンシュタインのような修正を施されている。全文を読むと10時間かかるそうだが全体的に辻褄があわなくなっていることがわかる。
共和党は政府債務増加に抵抗する人が少なくないが、議会予算局は「政府負債は益々増える」との統計を出している。さらに無保険の人も更に増えて1180万人になりそうだ。成長から取り残された地域から選出されている議員たちにとってはこれも気がかり。つまり支える地域と支えてもらう地域が別れてしまっている。
- Senate’s “big, beautiful bill” would add $3.3 trillion in new debt: CBO(Axios)
- 11.8 million more uninsured from Senate bill: CBO(Axios)
フェンタニルについて中国共産党陰謀論が出ていると紹介した。情報発信したのは日経新聞と駐日アメリカ大使だった。
その後のQuoraの議論ではアメリカ合衆国でパーデュー製薬がオピオイド中毒に陥る可能性があると知りながら鎮痛剤を売りまくっていたと言う事例が紹介されていた。別の識者によると麻薬には流行があるそうなのだが、アメリカでは製薬会社が流行を作っていたということだ。すでに市場ができあがっているためアメリカに持っていったほうが手っ取り早く高く売れるのだという。今後無保険の人が拡大すれば「市場」がさらに拡大することが予想される。
民主党は「予算案を全部読め!」と要求している。全部読むと10時間かかるそうである。国民がすべてをきちんと理解するのは極めて難しそうだ。
すったもんだの末に今の修正案で次の審議に進めてよろしいですねとの採決が行われ2名の共和党議員が造反し僅差で可決した。1名はトランプ大統領にプレッシャーをかけられたため「次の上院選挙には立候補しない」と表明した。これは本音では反対したい共和党議員も多くいることを示唆している。次の選挙トランプ大統領に妨害されることを恐れて造反できない人たちが一定数いるものと見られる。
負債が増えることが決まったのでできれば金利を安くしたい。第一期政権での大統領の言動を考え合わせると「金利を低くして減税すれば景気が良くなる」と単純に考えているようでもある。このためパウエル議長を批判して無理矢理に金利を下げさせようとしている。
このように予算審議が難航しているため大統領は自分が自由にできる(テクニカルにはそうではないようだが、少なくとも大統領はそう思い込んでいる)関税のこだわっている。このため「関税は一方的に通告すればいつでも自由に賦課できる」という謎ルールがでっち上げられている。
国際貿易裁判所は「大統領の関税権限」を制限する判断を下しており現在最高裁判所で係争中。しかし、自動車・鉄鋼・アルミはこの判断の対象外だ。結果的にどうしても自動車・鉄鋼・アルミの関税の比重が増えてしまうのである。日本のように自動車産業に依存する国には大きな影響が出そうだ。アメリカにサプライチェーンを構築してもカナダやメキシコが入っているため関税の影響を受ける。
大統領が関税にこだわるたびに株式市場は動揺する。最終的には「TACO理論=大統領は最終的に日和って撤回するだろう」が発動し株価が元に戻ると言う状況が続いている。
予算案はこの後上院で採決されて下院に差し戻されて成立の見込みだそうだ。しかし上院でかなりの魔改造が施されているためすんなりと通るのかは誰にも見通せない。
さらに、今後不法移民摘発の影響が出てくるものと見られる。エッセンシャルワーカーがかなり足りなくなりそうだが、人材が足りなければ給料を上げて補うしかない。逼迫感が市場予想を超えてくれば当然株価や実体経済に影響を与えるだろう。
内政が行き詰ると関税と防衛費にこだわるという循環ができつつある。日本はたまたまこの2つでアメリカに大きく依存していて経済への影響は大きそうだ。
メルケル政権時代にエネルギーで大きくロシアに依存していたドイツは政権交代でも国民を納得させることが出来ず大連立に追い込まれている。日本でも同じようなことが起きるのかもしれない。