決断は1秒前に下す。誰も私が最終的にどんな決断を下すのかはわからないだろう。トランプ大統領はマスコミにたいしてこう強がってみせた。Quoraで記事をまとめているうちに「これって受験生の鉛筆ころがしでは?」と思った。要するに何が正解なのかわかっていない。ただ受験生の鉛筆ころがしとは違った点もある。
間違った目が出ると核戦争になる。
トランプ大統領はイラン攻撃作戦を承認したが「最終決断は1秒前に下す」と述べた。本人としては「何をしでかすかわからない狂人理論の使い手」ぶりをアピールしたかったのだろう。だが、仮に狂人理論の使い手であれば軍事作戦の可能性は伏せていただろう。要するに自分でもどうしていいかがよくわからなくなっているがそれを言い出せないのだ。
トランプ大統領にはニクソン政権におけるキッシンジャー氏のような実務家が存在しない。彼の周りに群がるのは何らかの利益を求める人や狂気じみた野望を実行したいと考える野心家ばかりである。
実際にはトランプ政権は必死になってアラグチ外務大臣との接触を試みている。しかしながら外交交渉を行う国務省のルビオ国務長官は実はタカ派の好戦主義者であり軍事を担当するヘグセス国防長官がアメリカ第一主義者というねじれがある。ウィトコフ特使は外交素人でありなんの役にも立たない。
現在、イギリス・フランス・ドイツ・EUの外務大臣がアラグチ外務大臣とコンタクトを取っていて20日に会合を持つことになった。トランプ大統領は決断できる強い大統領というイメージを保持したままでヨーロッパの外務大臣たちが「まあまあ」ととりなしてくれるのを待っているのかもしれない。余裕をみて2週間待ってやると「寛大なところ」を示した。
Axiosはウィトコフ特使がアラグチ外務大臣とコンタクトしようとしていると書いている。しかし彼はプーチン大統領の手駒にすぎず、トランプ大統領はプーチン大統領の仲介を拒んでいる。もう詰んでいるのだ。
支持者たちはこの状況にすでにかなり動揺している。
このところ盛んにタッカー・カールソン氏とテッド・クルーズ上院議員の言い争いが報道されている。MAGAのインフルエンサーたちはイランへの介入に反対し続けており、強硬派はMAGAを「反ユダヤ主義者」と罵る。一方で民主党のローゼン上院議員はネオナチ的な白人至上主義者たちを「反ユダヤ主義者」と定義しておりヘグセス国防長官が反ユダヤ主義を放置していると責め立てている。アメリカの政権はまさにレッテル貼りと印象操作ばかりが横行する人間動物園状態だ。
ワシントン・ポストの世論調査を見るとアメリカ人はイランの脅威を差し迫ったものとは考えていない。共和党の支持者たちは半数弱がイランの攻撃を支持しているが迷っている人も多いようだ。Axiosはエコノミスト・ユーガブの調査も引用しているがこちらを見ると積極的な介入を支持する人の数は極めて少ないという。そもそもアメリカが主導した軍事作戦ではなくネタニヤフ首相の政治宣伝に流された結果なのでMAGAに対してきちんとした印象操作が出来ていなかったのだろう。
さらにトランプ大統領は米軍が保有するバンカー・バスターの威力にも疑問を持っているようだ。アメリカ合衆国が長期戦に巻き込まれず「きれいに問題を片付ける」ことができるならば作戦を承認してもいいと考えているようだが、そもそもリスクのない軍事行動はない。
100%成功する戦争などありえないとは思うのだが、トランプ大統領には同情できる点もある。移民掃討作戦に関する状況が混乱している。彼の周りには問題が積み上がっているが誰も彼に代わって問題を解決しようとはしないのだ。これ以上問題を増やしたくないと考えても当然だ。
ただこの状況を作り出したのはトランプ大統領である。おそらく彼はそもそも大統領になるべきではなかったということなのだろう。