業務が急拡大した会社がある。正社員の雇用が間に合わないためにバイトを大量に入れたらどうなるか?
このエントリーでは、アメリカ合衆国で急増する「不法移民」について考える。不法移民の導入はバブルを弾けさせないように労働供給を増やすバイデン大統領の狙いだったと指摘する人がいる。権利が限定的な「二級国民」はバイデン政権下でかなりの数流入している。
二級国民の導入は、中国のように農民戸籍と都市戸籍が別れている国や、緩やかな連邦制を採用しているEUでは採用できる手法だが法の下の平等が担保されているアメリカ合衆国では通用しない。さらに「出生地主義」という問題もある。二級国民が生んだ子どもは一級国民として分類されてしまうのである。
最高裁判所が「下級裁には出生地主義を制限する権限はない」との判決を下した。ただし出生地主義そのものについては判断しなかった。トランプ政権はこれを歓迎しているが、改革派のソニア・ソトマイヨール判事判事は「大統領が勝手に憲法で保証された権利を取り上げることができるようになる悪しき前例だ」と反発している。
この手のニュースを見るとつい「市民運動」の感覚で人権擁護についてトランプ政権の手法に対してネガティブなことを書きたくなる。
そんななか、PIVOTで興味深いプレゼンテーションを見つけた。雇用ジャーナリストと称する専門家がアメリカは7月以降に空前の人手不足に陥る可能性があるとしている。
政治混乱も合わせて秋には落ち着くだろうが、株価には一山・二山あるだろうとしている。株価に興味がある人は箇条書きにして話をまとめてみるのも良いかもしれない。
海老原氏はバイデン大統領は(コロナ禍などの要因はありながらも)トランプ大統領の減税で作り出された経済バブルに乗るのに成功したと評価している。
ただ、そのバブルは何らかの資源制約によりしぼむ運命にあった。海老原氏は雇用制約でバブルがしぼんだかもしれないと指摘したうえでバイデン政権は移民を大量にアメリカ国内に流入させることでこの問題を解決したと指摘している。
海老原氏の指摘だけではいささか心もとないので別の資料を探した。2024年4月時点で730万人の移民が流入したのだという。これほどの間での数の移民が押し寄せれば当然社会不安が起きることになるだろう。
これまで移民問題については「人権保護」や「多様性推進」が前面に押し出されており今でもこのコンテクストで語られることが多い。一方のトランプ政権はアメリカ合衆国を「旧来の白人・キリスト教を中心とした国家」と位置づけている印象だ。
しかし海老原氏によれば問題の本質は急速に拡大する経済の人材リソースの確保だった。純粋に経済的動機だったということになる。
バイデン政権はこうした人々に対して6ヶ月間のトレーニングを行い労働市場に放出していたそうだ。コロナ禍でエッセンシャル・ワーカーの仕事は不安定化していたが、エッセンシャルワーカーが急速に移民に置き換わることで多くのアメリカ人が社会階梯を登ることができた。
製造業にいた人たちはオフィスワーカー(日本で言うところのサラリーマン)になり、エッセンシャルワーカーたちは工場労働者として雇用された。当然人々は豊かになったが、結果的に激しいインフレも引き起こされている。
海老原氏はこうした人材在庫はまもなく払底するだろうと見ている。すると人材制約から経済は急速に収縮することになるだろうと見ているようだ。これまで社会階梯を登っていた人たちは文字通りはしごを外されることになる。と同時に自動車ローン、教育ローン、クレジットカード・ローンなどが重く肩にのしかかる。
海老原氏を信じて株を売ったり買ったりすることについては「どうぞご自由に」というしかないが、議論の構造としては極めて興味深いと感じた。
我々はよく経済を成長させるためにはイノベーションが重要だと考える。このブログでも何回かそんなことを書いたことがある。だが実際には格安の労働力を供給しそれが消費市場として導入されることが重要で最も手っ取り早いある。
EUは東ヨーロッパを取り込み格安人材の供給源とすると同時に市場としても期待していた。これに乗って成功したのがドイツである。
中国も同じような二重構造になっている。農民戸籍を持っている人たちを労働者として雇入れて都市戸籍を持っている人たちが繁栄した。
逆にイギリスはEUから離脱し経済不況に陥った。
しかしこうした二重構造はやがて破綻する。だから次から次へと新しい構造を作って焼畑農業的に経済を拡大してゆくしかない。これが資本主義である。
(海老原氏の見立てによればだが)バイデン大統領は当座の経済制約の解消には成功した。しかし、その後のことは考えていなかったのではないか。
実際に中間選挙までには政策に破綻が見え始め、議会が共和党にコントロールされるようになった。さらに大統領選挙ではトリプルレッド状態になっている。
バイデン大統領後の民主党は壊滅状態だ。政党をまとめる人がいない状態でスロットキン上院議員によれば「太陽のない太陽系」のようになっているという。太陽とはつまり民主党を牽引してくれる強いリーダーを意味している。
では、バイデン大統領が場当たり的な大統領だったからこのような状況が生まれたのか。また、トランプ大統領はアメリカを牽引する輝かしい共和党の太陽なのだろうか。
むしろアメリカ合衆国の経済はすでにコントロールを失っておりとりあえず今がけに落ちないために必至でハンドルを握っている状態だった可能性もある。
このように既存の憲法秩序ではアメリカ合衆国という暴走するバスを運転できないと悟ったアメリカ国民は「トランプ大統領という強いお父さん」が問題を超法規的・超憲法的に解決してくれるかもしれないという可能性にかけているのかもしれない。
ところがトランプお父さんは無理な理屈を作りその理屈に合わない意見を次々と排除してしまう。トランプ大統領も輝かしい太陽というよりは暴風のような存在だ。
このために労働制約問題は病的な不法移民の駆逐運動に付け替えられてしまい、議論そのものが成り立たなくなっている。
今回の最高裁判所の判決は「出生地主義」そのものについては判断していない。憲法秩序によればいい出生地主義も悪い出生地主義もない。そもそもアメリカ合衆国は移民国家なので「いい移民と悪い移民」は区別できないのだ。最高裁判所は原理的にこれに介入できないのだからトランプ台風から距離を置くしかない。
仮にトランプ大統領が不法移民の排除に成功してしまうとバイデン大統領が引き伸ばしてきた労働制約が一気に加速しアメリカ合衆国は重度の経済縮小を引き起こすことになる。バイデン大統領のツケをトランプ大統領が払うことになってしまうのだ。
先日の長い長い投稿では、アメリカ合衆国と国際秩序に焦点を合わせ、アメリカ合衆国は今や国際秩序を守る側ではなく撹乱する側に回るようになったと書いた。
しかしその原因はおそらくトランプ大統領個人の資質にあるのではない。アメリカ合衆国や先進国一般が抱える構造的な問題が背景にある可能性が高い。日本もこの構造の一部であり従ってアメリカの混乱により大きな影響を受けるだろう。